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「苺畑の午前五時」とビートルズとリヴァプールについての本

ビートルズゆかりの地が閉鎖へ
ビートルズのヒット曲の題材となったリバプールの孤児院「ストロベリー・フィールド」。運営する慈善団体の救世軍は12日、孤児院が閉鎖されることになったことを明らかにした(英国・リバプール)

 ……やはり、この記事へのトラバならつい「苺畑よ永遠に」と打ちたくなるとこだけど、これは松村雄策の書いた小説のタイトル。

 私は松村という人を恐ろしく信用していて、彼と私の意見が違う場合は、彼の方が正しいのだと思うことにしている、でも、自分の意見は変えない……というのも、松村が山口瞳について書いたののぱくりだ。
 もっとも、この小説を読んだ感想としては、残念ながら、松村雄策は圧倒的に随筆家だなあというとこだ。ただ、一時でも心底ビートルズを聴いた(listen very hard)人には何か伝わるものがあると思う。
 
 閉じられる孤児院(記事はストロベリー・フィールドと書いているが、ビートルズ関連の書籍では全てフィールズである、念のため)は、ジョンの家の近所にあった。唯一のオフィシャル・バイオグラフィー、ハンター・ディビスの「ビートルズ」で書かれた子供時代の思い出では、
 
……たとえばストロベリー・フィールズがあった。これはこの地方で救世軍が主催している子供の家である。毎夏そこで盛大なガーデン・パーティが開かれるのである。
「救世軍のバンドの音が聞こえると、ジョンは跳びあがって、『ミミ、早く行こう、おくれるよ』と大きな声で言いました」
*1 ミミとは、実の両親に見捨てられたジョンを育て上げた、母方の伯母さん





 13歳の夢だった。何がなんでもイギリスに、リヴァプールに行きたいと、大人になったら真っ先に行くんだと決めていた。
 だが、まだ行ったことはない。
 もしかしたら、行くことはないのかもしれない。今となっては行きたいかどうかもわからない。
 ただ、ここ十年ほど、アイルランドに片思いしているのだが、あの島に渡る時は、グレートブリテン島から船で行きたいと思っている。
 そのとき、できれば、リヴァプールから出る船があればいいのだけれど。

 HPでも紹介したが、司馬遼太郎は、『愛蘭土紀行』の中で、リヴァプールの街と、そこに住むアイリッシュ・カトリック、つまりビートルズの出身層を活写している。(彼はリヴァプールから飛行機でアイルランドに向かった) 
 また、経済学者の高橋哲雄も『二つの大聖堂のある町』という現代イギリスの都市を扱った好著でリヴァプールについて書き、港町としてのあの街を「泉州堺」に喩えている。
 感傷垂れ流しか、ただのミーハーかのビートルズ紀行を読むより、この二冊の本を読んだ方が、遥かに「四人が」生まれ育ったリヴァプールがわかる。
 
 ストロベリー・フィールズという孤児院は閉鎖されたが、取り壊されるのかどうかはわからない。ビートルズが観光資源の街だから、買い取って記念館にするかもしれない。そこでストロベリー・フィールズ・フォーエヴァー饅頭(彼の地だからパイか?)でも売るかもしれない。
 けれど、そんなことはどうでもいい。彼が連れて行きたいと言った苺畑は、nothing is realな場所なのだ。ジョンにとって大切だったのは、現実の孤児院ではなく、彼の中のストロベリー・フィールズだったわけだし、そういった場所なら、私も幾つかある。
 だから、どうということはない。
 ジョンが教えてくれたこととか、そういうのもどうでもいいことだ。そういうことを、今更嬉しそうに吹聴する気もない。ビートルズは、今のポップスのゼロ地点であるが、私の中でも何かのゼロ地点であることはまちがいない。だから、言うまでもない。
 でもまあ、一応書いておこう。表題の本の中の一節だ。
 
亮二はビートルズを聴いていたのだ。真剣にジョン・レノンを、五年間聴き続けていたのである。何かあるというなら、このまま黙ったままで卒業するわけにはいかなかった。


松村雄策「苺畑の午前五時」(ちくま文庫)
司馬遼太郎「愛蘭土紀行Ⅰ 街道をゆく30」(朝日文芸文庫)
高橋哲雄「二つの大聖堂のある町」(ちくま学芸文庫)

ロイター続報
by acoyo | 2005-01-13 14:53 | 音楽 | Trackback(3) | Comments(14)
Tracked from MUSICLIP at 2005-01-14 11:13
タイトル : Strawberry Fields Forever !!
ジョン・レノンが幼少を過ごし、ビートルズのヒット曲のタイトルにもなった孤児院、ストロベリー・フィールド (リバプール.UK) が閉鎖という、悲しいニュースが流れてきました。ビートルズ・ファンにとっては、聖地のひとつがなくなってしまう気分です。セントラル・パーク ...... more
Tracked from それはなにかとたずねたら at 2005-01-14 18:45
タイトル : 毎晩苺畑巡り
「苺畑の午前五時」とビートルズとリヴァプールについての本 ストロベリーフィールズが閉鎖されるということで、TB。 あこさんが「まさにそうだぜ」という記事を書いておられるのですが、 最近「ストロベリー・フィールズってどんな歌なん?」と質問されたことも あり、はじめての訳詩でも。 Strawberry Fields Forever words and music by Lennon/McCartney Let me take you down cause I'm going ...... more
Tracked from ライナスの屋根裏部屋 at 2005-01-15 02:38
タイトル : Strawberry Fields Forever
イギリス・リバプールにある救世軍の孤児院「ストロベリー・フィールド」が閉鎖される... more
Commented by k-nsh at 2005-01-13 15:06
私もビートルズファン この曲もテープが伸びてしまうまで聞いた 皆思うように彼の地へ憧れた でも私には三国志で孫権と曹操の争ったあの場所へ私が訪れる前にダムによって沈んだほうが重いけど m(_ _)m
Commented by satsuki at 2005-01-13 16:37 x
おもむろに、magical mystery tour を聴く。
penny lane といい、「苺」といい、わたしの好きなbeatles は ここにあるのであった……
Commented by bukabin at 2005-01-13 20:41 x
ビートルズは,英語がわかりやすい洋楽.という扱いでしか聴いたことがなくてスミマセン・・・・・。アルバムも何枚か持ってるのに,聴き込む.というほど聴かないのでございます.BGMって感じかなぁ。語る資格なし?(笑)
Commented by acoyo at 2005-01-14 12:24
>k-nshさん
テープが伸びるまで、ああ、そうよね。あの頃は、聴けば聴くほど減っていくのよね。思い入れが深いほど音質は悪くなっていくという(藁)。
私が「げっ!」と叫んだのは、九龍城砦取り壊しでした。「まだ行ってないのに!」と叫び回ったんだけど、そん時、金が無くて……(涙)。
んで、Kちゃんは曹操と孫権と、どっちが好き?

>satsukiさん
私も今、一番聞きかえすのはあのあたりですね。音が幸福なんですよ。

>bukabinさん
いえいえい、何についても語る資格の無い人などおりませぬ。聞き流せるというのは、音の完成度が高い、ということの証ですから。
Commented by ぶかびん at 2005-01-14 14:17 x
>何についても語る資格の無い人などおりませぬ

あぁぁぁぁ,なんかステキな表現!!!
カッコイイ!スキだ!映画のセリフっぽい.マネしよっとw
Commented at 2005-01-14 14:22 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by acoyo at 2005-01-14 15:14
>ぶかちゃん
も、いっくらでも真似して(藁)。オープンリソースよっ。
そいで……仕事行けーっ(大藁。今日のぶかちゃんには一日、この攻撃一本で行ったる)

>鍵コメさま
ありがとうございます。おほほ。
Commented by belltone at 2005-01-14 19:33
がっつくようにTBいただきました。ありがとうございます。
それにしても、ストロベリー・フィールズ・フォーエバー饅頭は食べたいですねえ。
「ストロベリー・大福・フォーエバー」とか、「フレミング・パイ」とか売り出したら絶対売れますよ。
実は「街道を行く」もその巻は持っておらず、松村さんの文章も「渋松対談」のみしか
見たことが無いという不勉強野郎です。注文しました。
Commented by KAZZ at 2005-01-14 22:53 x
Paulのコピーは、指が速く動いたり、高音があと2音でれば完璧に出来るかもしれない。
でもJohnのコピーは、Johnになりきらない限り無理だし、Johnになれる訳が無い。だからコピーなんてしなくていい。本気になって叫べば近づけるから。ほんとSexyなおっさんだったわ。
Commented by acoyo at 2005-01-15 15:43
>belltoneさん
いつもいつもありがとうございます。登録商標でも取ろうかなあ、そいで埼玉の某記念館前の屋台で売るの♪

>KAZZさん
ジョンについては完全、その通りですぅ。でも、HPにも書きましたが、ポールの「一聴、棒歌い」も実はかなりの曲者っすよ。
Commented by KAZZ at 2005-01-16 12:07 x
HP覗かせて頂きました。
私のコメントの主旨は、4年前まで月イチでBeatlesやRolling Stonesのコピーバンドで遊んでいた時に感じた、技術的且つ個人的歯痒さが発露です。60才を過ぎてもポテンシャルの変わらないPaulと魂のありったけを開放したJohnに・・・。

一昨年のPaulの大阪ドームライブでPaulの凄さに改めて感動しました。
永遠にPop Songを作り、歌い続ける事の天才(ありきたりだが)。
若いメンバーを使っても変わらぬ世界が作れていました。
今年来日の噂(本当に最後?)がありますが、14,000円以上でも行くかも知れません。

ってコメントずれてるかしらん?
Commented by acoyo at 2005-01-16 18:56
↑うんにゃ全然すれてない。単に嬉しい♪
ストーンズは毎回行ってますが(これまた奇跡が演奏してやがるという感じですが)、ポールは何でか! 間が悪い時にお見えになる! こないだは心底焦りましたが、どうしようもなくて……(涙)。今度来てくれるなら、も、何があろうが行きまんがな。後はフー。お願い、、も1回来て~(涙)。
Commented by KAZZ at 2005-01-16 21:44 x
お恥ずかしいっすがThe Rollig StonesもThe Whoも見逃しています。
The Beatlesより先に好きになったのですが・・・。
間の悪さ、お財布の軽さ等々、重なるのですよ。
Brian Wilsonだって見逃したまま・・・。
それにしても皆、息長すぎ。それだけで芸術。合掌!!
Commented by acoyo at 2005-01-16 23:41
Brian Wilsonのことはもう言わない約束。涙滲んで来るから、ほんまに。