『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲 』ってざけんじゃねえ

2001年度日本作品を、今更どうしたの話ですが、だって、昨日、見たんだもん。
ストーリーについては以下のURLでどうぞ。
http://movie.goo.ne.jp/movies/PMVWKPD32402/comment.html
すっごく単純に言うと、「70年代」的テーマパーク(20世紀博だっけ)に大人がはまって洗脳され、子供を置いていっちまう。残された子供は親を助け出そうと活躍し……てな話です。ついでにネタばれになるかもしんないので、嫌なひとは見ないでください。ボロクソ言ってるんで、私の感動を汚さないでって人も見ないでね、と。

 最初に、私は「クレヨンしんちゃん」が大嫌いだった。あれは大人が子供に大人の猿真似をさせて喜ぶという、まるで角米獅子のような構図だからである(ジョンベネの呪いだな)。 なら、何故見たか? 「お願いだ、頼む、映画だけはすごいんだよ、観てくれ」と長年の連れに言われ続け、ネットでもすこぶる評判がよかったからである。

 で、観た。そして、これ薦めた連れと、じっくりデイベイトしようと思った。
 これは一体、誰のために作った映画なのか? 
状況を鑑みるに、一応、お子様家族向けであろう。とすれば、要するに、ポルノ映画などで新人監督がやるのと同じパターンで、最低限のフォーマットさえ守りゃあ、後は好きでいいもんね、ゲージツもボーケンもしちゃうぞってとこか。で、褒めてる人ら、まじで聞く。
 これ、子供が観て面白いと、本当に思うのか? うちの子は喜びましたって言ったって、本当に、この「成長」ってテーマがわかっておもしろがってると思うのか?

……と、始めると、大論文ぶちかましてしまいそうなので、批判は別の一点に絞って書こう。
 この製作者たちは、実は、70年代という時代をまるでわかっていない。

 一体、あんたらいつの生まれだ? 悪の結社〈イエスタディ・ワンス・モア〉のケン曰く、あの時代がよかった、日本はあの時代に戻るべきだって言うけど、あんた、70年代に何を見聞きしてたの? 監督、調べてみた?
 「人類の進歩と未来と調和」の大阪万博に始まる70年代ってのは、前のめりの高度成長期がドルショックですっころんでどよ~んと不況となり、深刻な公害問題は噴出し、後の土地バブルで日本人の倫理を壊滅させる要因となる「日本列島改造論」が生まれ、ロッキード事件があり……と、戦後日本の矛盾と問題の全てが露呈した時代だよ。
 下町に蕎麦屋が走り、貧しいながらも人々は穏やかに明るくなんて、それだけの時代じゃねえんだよ。水面下でどころか、もう問題と歪みが毎日、あ~ぶくたったぁ煮えたったぁだったのよ。(その時代の青年像、今の引きこもりへの先駆的症状である青年像については、関川夏央あたりを読まれたし)
 その程度の歴史認識(おお、言葉が大仰だ)で、どうすりゃ「人間、いつまでも過去を見てちゃ=子供でいちゃ駄目! 前を向かなきゃ=大人にならなきゃ」ってな聞いた風なテーマで終われるの。どうすりゃ、今の大人への痛切なメッセージになるんだよ、作り手がぬるいのに。大体、ノスタルジーと子供回帰願望をごっちゃにしていて……とそっちを言い出すとまたきりがないからやめて、と。
 未来は現在の先にあり、現在は過去の上にある。その過去を正しく見ようとせず、そこで何があり、何が行われたかを検証しようとせず、己に都合のいい感傷的な記憶で振り返るだけしかできない連中に、未来がどうの大人になれのと言われたくはない。要するに、70年代ブームだしぃ~ってな根性だろ。それにしても、本当に少しでも調べた? 雑誌の70年代特集見ただけ?

 唯一、細かいのは冒頭の万博描写だが、じゃあ、あの「レトロな70年代」の町並みですけどさ。ありゃ東京あたりの下町をイメージしておるようだが、そうか? で、本当にそんなもんだった? 何、あのお洒落な同潤会風アパート、あれが東京にはどこにでもあったんですか、へええ。いしいひさいちの仲野荘ならわかるけど。
 大体さ、あの当時、「郊外」というものは既に生まれかけてたの。そこで育った子供はもう、近所の八百屋や魚屋じゃなくてスーパーマーケットで物を買ったの。蕎麦屋の出前持ちなんて日常光景じゃないの。そいでもって、田舎はといえば、もうトトロと大差なかったりするわけで、そんなの、『ウルトラマン』や『怪奇大作戦』でも観れば一目でわかることだ。

 つまり、あの元ネタは一部メディアでたれ流された「70年代的原風景のようなもの」にすぎず、架空の情景にすぎない。その元々舞台の書き割りであったものをまたパーチャルに再現しようってんだから、その安さたるやドンキ並というか(笑)。作る側も安いが騙される側も安い。高校で近代史やらないから知~らないってか? でも、思い出がある人、もう少しその思い出を大切にしたらどうよ。(ついでに、作者側は、そのへんの甘さを70年代博じゃなく20世紀博ってことにして、既にごまかしの手は打ってんだから、狡いよなあ)

 そう言う根性の製作者どもだからこそ、劇中、子供たちが、自分たちを捨てて過去へ走る大人たちに呟く、「どうして?」「なつかしいって何?」という当然の台詞をないがしろにして平気なのだ。
 作者はそれに答えるべきだった。そのなつかしさの意味がわからない限り、子供は単に、最後のしんちゃんの「大活躍」に盛り上がって終わるだけだ。それがわからない限り、それを越える(あるいは対立する)glowing upへの強い意志は生まれようもない。つまり、ラスト、大人をみ~んな退行させちゃう機械を止めるため、東京タワーのてっぺんまではい上がって来たしんちゃんが、「オラは大人になりたい」となど叫ぶ筈がない。(実際、家族連れで見た人の感想は「家族が一番」の方に集約されてる。そして、仮にあのくそガキがわかってたところで、子供にとっちゃんなもん屁でもないから、せいぜい、オラに親返せよ、オラに安穏と子供させてろよ、としか言わないと思うがね。そして、その言葉は正しい)

 作者は、無理矢理に子供に「大人になりたい」と言わせ、それが聞きたくてたまらなかった大人には力強く媚びた。だが、子供の正統な疑問、何故親は私たちを置いていったのか、彼らをそうさせた「なつかしさ」とは何なのか?は黙殺した。おい、子供の問いに、答えられる限りは答えるのが大人の義務だろう。それこそ子供向け映画の義務だろう。
 言葉で答えられないなら、描画で、風景で、その切なさを描ききるべきだろう。(キャラクターの絵質で言い訳するんじゃねえよ。今川の『ジャイアント・ロボ』や『鉄人28号』を見てみろ) ここで宮崎や高畑を出すのは、卑怯という前に、名前を出すだけあの二人に失礼な気がするし、私があの二人を全面的に評価しているわけではないが、ただ、『トトロ』で再現された昭和30年代に、普段、TVや映画で「あの頃」を観る度に一々あら探しする実家の母も唸った。『火垂るの墓』を観た野坂昭如は「ありがとう」と泣いた。
 過去を映像化するとは、再現するとはこういうことだ。なあ、実際にあれを観た人は、70年代を知らない人の方が多いんだよ。知らない子供があれを見るんだよ。
 あんたたちは、子供に、適当な嘘を教えたわけだ。
 
 結局、長々書いてしまったが、一応、言っておく。確かにこの映画、アイディアは悪くない。あのお子様向けのたるいカーチェイスを除けば、テンポもまあまあの方だ。私とて、途中、くすくす笑いもした。だが、それがどうした。
 アイディアだけよくて、アイディアにだけ頼って、それをきちんと実現できない、というのが日本映画をつまらなくしていると思う。「予想される顧客」にだけアピールするくすぐりで、「ある程度望める」収益だけを確実に得ようとする根性が、アニメを面白くなくしていると思う。
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by acoyo | 2004-09-02 17:26 | 映画・ドラマ | Trackback | Comments(4)
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Commented by 暁のトレボゥ at 2004-09-05 09:17 x
はじめまして
私もこの映画は見ましたが同意権です
世間の評価って本当にあてにならないと思います。
ところで今川監督のジャイアントロボって面白いのですか?
Commented by acoyo at 2004-09-06 21:08
コメントありがとうございます。
ほんとうに、〈みんなのシネマレビュー〉もあてになりません。
そして、「ジャイアント・ロボ」は、絶対に、面白いです! 観て騙されたと思ったら誹ってくれて構いません。是非、是非、観て下さい!
Commented by 玄倉川 at 2005-03-29 14:20 x
いろんな人から絶賛されている割には、私もなんだかピンと来ませんでしたね。よくできているとは思いましたがそれほどのものか?と。
特に塔の上のクライマックスシーンには全然感情移入できませんでした。今までその理由が自分でもわかりませんでしたが、acoyoさんのおかげでようやくすっきりしました。ありがとうございます。
今夜「BSアニメ夜話」で取り上げられるんですが、ぷっすまとどちらを見ようか迷ってます。
Commented by acoyo at 2005-03-29 14:54
わざわざ古いネタにコメントありがとうございます。
わたくしとしましては、ぶっすまをお薦めします。