壮大なハコを作り続けた人が逝った。
まったくの私事で申し訳ないが、うちの同居人は建築をやっている。
といってもリーマンで、「先生」じゃない。一介のサラリーマンで、なおかついたって頑固な職人野郎だもんで、何が嫌いたって、人と自然との共存がうんたらとか蘊蓄捏ねる「くりえーちぶ゛な先生方」が嫌いだ。建築家が、自分が作ったハコに関して理屈捏ねて解釈するようになったら終わり、というのが持論つうか、そういうことに全然、興味がない。
だから、劇的ビフォア・アンド・アフター見る度に怒る。作る側の美意識の押しつけだと言ってぶすっと黙る。私がガウディに騒いでも、磯崎新のこととか話そうとしても、相手にしてくれない(といいつつも、「フランク・ロイド・ライトだけは別ったら別ったら別!」なのだそうだ。アイドルを持たない彼にとって少年期からの数少ないアイドルらしいw)。
そんな風に、「凍れる音楽」とか持ちかけてもぜんぜn乗ってくんないうちの職人さんが、Falling Water(フランク・ロイド・ライト作の有名な山荘)以外で珍しく強い口調で語った建物がある。
それが丹下健三の東京都庁舎だった。
他の丹下氏の設計した建物には全然反応しないのだが、この都庁舎についてだけは、まるで抗体反応のような激しさで言うのだ。
「醜い」と。
「エゴ」が空に聳えたち、こちらを威圧してひれ伏させようとしている感じだ。言わずとも伝わる厳かさってんじゃないんだよ。えばったるーと一人で一方的に胸張ってる感じ。あんなに醜い建物はない。常になく興奮してそう語っていた。
そう言われてみても、私は「わー、派手ー、バブリー、好きくない~」と思うくらいで、あの建物の何があの冷静が売り物男をしてそんなに興奮させるのかわからなかった。
今でもよくわからない。
ただ、一リーマンの分際で、ゲージツでござい、先生様のお作でございと澄まし返った建物(結果としてゲージツになるものはある、だが、それは結果なのだと彼は主張する)を黙殺し続ける彼でさえ、無視できない何かがあれにはあったんじゃないかな、と今は思う。
好き嫌いは別にして、それだけの力があったんじゃないかなと。「かっこいい」とかとか「おっしゃれー」ってなもんでなく、奇を衒ったこけ脅かしでもなく、その佇まいで、人に生理的な衝撃を与えるだけの建物を造れる人というのが、今、どれだけいるのかなと。
経歴を見る限り、丹下氏は「国家的プロジェクト」、権威の威信を象徴するような建物を多く造られた人だ。「バブルの塔」とも言われた人だ。同居人の嫌悪感には、そういうこともあるのかもしれない。ご大層なハコが嫌いな人だし(藁)。
確かに丹下健三の作り続けたのは、壮大なハコだった。その中身が充ち満ちて、その反映でハコが光輝いていた時代もあった。けれど、ハコだけが残ってしまい、建物を生かし続ける人、ハコを満たして輝かせる空気というのは、最早失われてしまったような気がする。
高度成長時代なら、あの都庁舎の堂々たるハコも意味があったのだろう。今日より素晴らしい明日を夢見て働く人々が、そこにいた時代なら。
でも、今、あの中で働いているひとたちに、そんな夢があるんだろうか。
とあれ、合掌。そして、戦後はますます消えていく。日本人が貧乏でいじましく、それでも夢だけはくさるほどあった時代を知っている人が消えていく。
*ところで、結婚した時にさあ、いつかお金ができたら一緒にFalling Water見に行こうねって約束したよなあ。ありゃどうなってんだよー、同居人。お金できないからかあ、ずっと。
*ほんで、ちょっと読みにはまるで関係ないんですけど、実際にはこの記事も念頭に置いて書いたもので。ゲージツカとエゴの問題です。
→日本一不味いラーメン屋と不思議ちゃん(belltoneさん)
壮大なハコを作り続けた人が逝った。 私自身はいわゆる建築家の事務所で働いているので、丹下健三氏が亡くなった事はもちろん話題だったけれど、この方の建物が建築関係以外の人にどう見えているのか、個人的に前々から非常に興味があったので。 建築だけじゃないと思うけれど、物事にはそれぞれの言語があって、丹下氏のそれと最近の建物の言語構造は全く違うものだと思う。 その言語構造の違いは世代的な事なのか個人的なことなのかわからないけれど、流行り廃りや国や文化と関係ないところで存在している。 そういう...... more
20歳そこそこの、今よりもっと阿呆だった頃、一口食べただけで二度と口にしたくないと思えるほど不味いラーメン屋を探して、店長に文句を言おう!会を結成していたことがあります。 まあ、暇だったんでしょうが、今思えば何故そんな事をしていたのか。 わざわざ文句言いに行かなくてもいいじゃないか、と思うのです。不思議ちゃんだったのか。 不思議ちゃん、と呼ばれるヘンテコな人達は、概ね、客観性を欠いています。 「第三者の目から見た自分」を全くもって想像できていない場合が多い。客観性を持った不思議ちゃんは...... more
それはともかく、都庁は私も「どうだろ」でした。何より、ムダづかいしやがって!って思った記憶が。
フジテレビ本社もこの方だったのですね。どうりで趣味がアレなワケだ。(アレ?)
あ、ご同業者ですかあ、どもども(藁)。つうかうちのはでえくの棟梁やるかか青函トンネル掘ってた方がよかったのではないかと思う性格ですが、美フォア&・アフターに関しては、クライアントの意志不在、クライアントの趣味不在の、センセのショールームだってのが一番腹が立つみたいです。
仕上がりの出来不出来でなく、センセの趣味が主でそれまで住んでた人のライフスタイルや物の考えかたを無視してると怒ってます。だもんで、滅多に見てません(大藁)。
私そっち方面には全然明るくないので良く知らないんですけども。
あと今日ちょこっと読んだ記事には丹下さんっては作ってる途中でちゃぶ台返しをした人とか・・・(^^;その作ってきたモノを考えてもらしいなあと。
>センセの趣味が主でそれまで住んでた人のライフスタイルや物の考えかたを無視してると怒ってます
なるほど〜、プロはそーゆー部分もシッカリ見ていたりするのですね(って、あの番組はチラっとしか観た事ないですが(;^_^A)。
確かに家は大きな買い物だし、毎日そこで生活するわけだから、住む人の事を第一に考えて欲しい…と思いますです。
>だもんで、滅多に見てません(大藁)。
(笑)わざわざ怒らせる事ないですもんね。
同業者系統ではないかとは思っておりましたが、そんな超大物とお知り合いだったのか……うわー。
★tonbori-drさん
そうです、明治村にあるあれ設計した人です。確かにすごくキレイな建物を造りますが、住みやすさという点では違う証言もあがってます(藁)。
★manyanaさん
あ、早とちりごめんなさい。んで、とととと、と同居人の元へ行き、まにゃーなさんという鋭い方がこーゆーことを言うておられるがどうだに?と訊ねると、「どーしても『直に使うもの』作ってるから、実用性って縛りは他よりきついと思うんだけど、最終的には個人の資質かなあ」と言っておりました。
はい、義憤にかられるとしつこい野郎です。
★yalingさん
わーい、yalingさんの自慢話だー(藁)。でも、勿体ない。ライトの家は見る価値はホントにありますよ。ただ、こんな家を買う金が自分にないというのがちょっち哀しくなるだけで(藁)。
シカゴ周辺はライトつうかその系統の方の建築物が多く、建築やってる人間には「たまんねー」街なんだそうです。
その方が儲かったと思う、絶対(、マジで。しくしく。
★zaziesさん
実際に他業種のセンセの知り合いがいますが、センセもまたセンセで、不特定多数のクライアントの要望に縛られています。100%エゴを出せるというのは、物を作る人間にとって憧れだけど、現実には不健康だと彼は言っておりました。そうかもなあと思います。要するに、緊張感の問題ですね、作り手の。
シャネルも叩かれた時期はあったし、売れなかった時期もあったわけで、今、名前だけで売れているのより、その頃の方が作品としては面白かったかもなあと思うんですよ。
そうですね、そうとも言えますね。面白いなあ。
ただ、結果的にゲージツになる事はあるが、あくまで結果だ、ってのは、かっこいいなあ。憧れますね。僕もそう言いたい、と思ってしまいます。職人ってのは、かっこいいですな。
ところで都庁は有事の際には巨大ロボに変身するそうですよ。