いい犬だな、アイリッシュ・セッターか、とヴィクター・マクラグレンは言った

b0016567_18414610.gif これは『黄色いリボン』で、軍曹が砦で飼われている犬を褒めるときの台詞。勿論、アイリッシュ・セッターだからいい犬なのである。アイルランド産の犬ならいいに決まっている、だって、ジョン・フォードの映画だもん。

 映画の台詞の中でも、特に好きな台詞の一つ。嬉しそうに犬を見るヴィクター・マクラグレンの表情も相俟って、なんか、いいんだ。似たようなものなら、同じ映画で、退役記念に部下から貰った時計が嬉しくて嬉しくて、何かって言うと、ほら、今、何時かな、何時? 見てくれないか、この部下の刻んだ銘の入った俺の時計でって言い回るジョン・ウェインも好きだ。



 私の映画(映像じゃない)の原体験というと、結局、TVの洋画劇場のジョン・フォードなのだと思う。
(そう言うと別の連れが私はヒッチだなと言い、同居人はワイルダーと言う。それを訊くと少し嫉妬する、だって、ヒッチとかワイルダーの方が聞こえがよくて、おたれじゃないか)
 TVにしても特撮物は大好きだったけど、女の子が主人公の魔法物にはさほどはまらなかった。といって、一人っ子の引っ込み思案で家に居ることが多い子供だったので、外で男の子を泣かしたというような経験はなく、概ね、性別問わずに泣かされる側だった。いつも本を読んでるかお人形で遊んでいる娘に、勝ち気なフェミニストの母は些かじれったくもあったようだ。
 けれど、お人形ごっこでやっていたのは王子様が迎えに来る話じゃなかった。私の頭の中でリカちゃんとなんとかちゃんは西部で馬を駈っていたり、宇宙の悪と戦っていたりした。

 んで、私のオヤジ好きも、アイリッシュへのこだわりも、遡ればジョン・フォードなのだと思う。それは理屈とかではなく、単に、幼稚園の頃、母親の横で見ていたジョン・ウェインだったりヘンリー・フォンダだったり、ヴィクター・マクラグレンだったりするわけだ。
 前にHPで書いた、溝口・小津・黒澤ならまず黒澤を選ぶ、というのも、同じジョン・フォードという根っこがあるからだ。

 とか言ってると、したりんの人が言う。フォードは差別主義者だと言う。男性優位主義、白人優位主義者だと言う。なのに、いいのかと。そんなこと言うのは、現在から過去を無思慮に断罪する類の輩だし、フォードが本当に、「常に」アメリカン・ネイティヴを差別的に描いていたかどうかなんて検証する気もない連中だからかまわない。
 そして、私はジョン・フォードの政治的信条が好きなのではない。その信条に対する態度に惚れているのだ。

 経験から言うけど、ほんとに強い人、誰にも、正義にさえも頼らずに自分の信条で行動できるほど強い人は、必ず他人の決断も、信条も重んじる。会社に居た頃、本当に力さえあれば女でも認めてくれたのは、頑固な技術屋のおっさん、職人肌のおっさん、要するにプロとして誇りのある人たちだった。
 口ではいかにも理解ありげなこと言ってる連中は何かっていうと、人を屋根に上げといて梯子を外した。そんなとき、下からアホかと言う目で見上げながらも、どうすればまだ少ないリスクで飛び降りられるかを教えてくれたのは、そんなおっさんたちだった。何かのためにどうしても必要とあれば汚い手も使うが、そのことを人にも自分にも言い訳しないおっさんたちだった。
 そんなおっさんたちが、そんなときは、どんなに怖くても一人で飛び降りなきゃいけないんだと教えてくれた。

『駅馬車』で、町のお上品なおばはんどもに石もて追われそうな酒場女(クレア・トレヴァー)の手を取ったのはアル中の医者(トーマス・ミッチェル)だ。そして、彼女がレディとして町を去れるようにエスコートし、こう言う。
わしらはお互いにある薄汚い病気の犠牲者なんだよ、社会的偏見とか呼ぶがね、娘さん。こちらの法と秩序同盟の愛すべきレディがたは、そんな町の屑をたたき出してるのさ。
だから、さあ行こう、誇りを持つんだ、この私のような栄光あるクズとしてな
We're the victims of a foul disease called social prejudice, my child……These dear ladies of the Law and Order League are scouring out the dregs of the town. Come on―be a proud, glorified dreg like me.

 そして、フォードの中で一番好き、というか、オールタイム・ベスト・オヴ「映画の台詞で私が言われてみたいもの」ってのは、これになる。これはもう訳すだけ野暮ってもんだろう。
Ma'm I sure like that name……Clementine.
 ただし、あのシチュエーション、あのヘンリー・フォンダ調で言ってほしいってのが、最大のポイントですがね。


*なんでこんなとりとめのないことを書いてしまったかというと、tonbori-drさんのゲームを読んだから。こっから何でジョン・フォードに話が行くんだよってのは、まあ、わかる人はわかってくれるか。
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by acoyo | 2005-04-01 18:48 | 映画・ドラマ | Trackback(1) | Comments(12)
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Tracked from samuraiの気になる映画 at 2005-04-03 22:27
タイトル : ジョン・ウエインの「アラモ」
最近リメイク版が劇場公開されましたが、私の中では「アラモ」といえばジョン・ウエインが1960年に制作、監督、主演した「THE ALAMO」以外にはございません。今回長いです。ネタバレありです。 物語は1936年、テキサスの自由と独立を守るためサン・アントニオのアラモ砦に立てこもり、独裁者サンタ・アナ率いる7000名のメキシコ軍を向かい撃って全滅した、185名の義勇軍の13日間の戦いを描いたものです。 映画の主役は当然ケンタッキーからテキサスの危機を聞きつけ同士を連れて駆けつけたジョン・ウエ...... more
Commented by tonbori-dr at 2005-04-01 22:43
うんうんよお解りマス(^^)
それこそがプロ。規範を持った者たち。愛すべき愚か者達ですねえ。

ちなみにおいらの西部劇原体験は「リオ・ブラボー」これも政治的信条ではゴリゴリの共和党なハワード・ホークス(笑)カントク作品


Commented by samurai-kyousuke at 2005-04-01 22:54
わたしはジョン・ウエイン版「アラモ」ですねー。あの映画を見て"テキサス共和国"を守るため命を捨てて立ち上がった人々に子供心に涙しました。
後年、大人になるにつれテキサスに共和国なんてものは無かったということを知りました。
だからといって今でも「アラモ」は大好きな映画の一本です。
Commented by forest-sea at 2005-04-02 15:47
ははー、マカロニウエスタンからはいったボクはだから高みの見物になっちゃうんだな。
Commented by jaguarmen_99 at 2005-04-02 17:04
映画見ない自分も完全にカヤの外っす〜。
最近犬をもし飼っても、それがえらく阿呆で長生きしてくれたらどんな気持ちなんだろう、と考えたりしてみました。それだけで愛のカタチが変わりそうで。
Commented by acoyo at 2005-04-03 09:20
★tonbori-drさん
あっ、ホークス、いいですねえ。右翼のすけべじじい、いい映画一杯取りましたねえ(大藁)。あの人も、ワイルダー並に芸幅の広い巨匠ですな。

★samurai-kyousukeさん
そうなんです。子供の頃の原体験映画ってのは信条より、そのアティテュードが残るものなんですよね。ネイティヴ差別と言われても、ジョン・ウェインがスクリーンで示した勇気を否定するのは難しい(藁)。

★forest-seaさん
私はマカロニ・ウェスタンってのは木枯し紋次郎の母胎であって、関わりたくない人が、最終的に義によって助太刀する羽目に陥る映画ではないかと思いますが。それと、あれくらい、何も頼らぬ強い男が出没する物語はないと思うがなあー(藁)。

★jaguarmen_99さん
犬はアホでも利口でも、どっちでも大好きです。それは生きる目標とかそのとき欲しいものというのが、人間よりクリアだからではないかと思います。

Commented by y_natsume1 at 2005-04-03 13:55
ジョン・フォード作品はすっごく好きで、子供の頃TVの洋画劇場でよく観てました。 「荒野の決闘」「黄色いリボン」「捜索者」・・・。でも、アイリッシュを意識し始めたのはかなり遅く、大人になってからでした。「静かなる男」でケルトの十字架が出てくる場面がありますが、あれも子供の頃には分からなかったですね。 Hホークスもマクラグレン監督もけっこう好きです(笑)。
Commented by princess_in_blue at 2005-04-04 12:39
私の場合、「荒野の七人」が根っこかしら?
なんせ、初めて見た西部劇なんで・・・
あの刷り込みのために未だにスキンヘッド+濃い眉に弱いわたしですw
あ、ジェームズ・コバーンも♡
「電撃フリント」シリーズは大好きです♪
Commented by zazies at 2005-04-04 13:34
そういえば「荒野の決闘」を「愛しのクレメンタイン」ってタイトルに変えたの思い出しました。今でもこれって解せないです。ちなみに私はねちっこいマカロニ派でジェンマが好きでした。ユルちゃんもいいですね。ああいう人なら毛がなくても素敵です。
Commented by 050405 at 2005-04-05 01:11 x
ジョン・フォードといえば、今から20年前、文芸座ル・ピリエで特集がかかってて、
上京したての私は「東京ってやはりいいな」とホクホク&しみじみ思ったモノでした。
ちなみに同じ頃「ヤァ!ヤァ!ヤァ!」もニュープリント版でわざわざ大井まで見に行ったです。
一夏で50本(映画館で)見たという、私のシネマライフの真夏の夜の出来事でした。
今は…今はHDD/DVDレコーダで撮っても、見る時間が無くて録り溜めオンリー(悲)。
小津映画も全部録りましたが、まだ5本くらいしか消化できてませんねぇ。
やはり子供がいると自分の時間がなくなりますねぇ。
Commented by acoyo at 2005-04-06 14:05
★y_natsume1さん
子供の頃は「アイルランド?」って感じでしたが、ヒギンスが人生に入って来ましてからはもうあなた(藁)。「静かなる男」、いいですねえ。個人的には一番好きかも。はい、ホークスも大のお気に入りです。

★princess_in_blue
「荒野の7人」! いいねえ、あれも背骨のどっかに入ってると思う(藁)。ジェームス・コバーン、彼ってのは、子供にも通じる男のかっこよさだったと思うなあ。つうか、ああいうのは、子供でもわかるんだよね。

★zaziesさん
えへへ、私は原題に近い「愛しのクレメンタイン」の方が好きなんですよ。ジェンマですか。今にして思うとああいうこゆい内容にあの手の美形ははまりますね。あなたもユル・ブリンナー? あの人に惚れる子供も多かった(藁)。私もそうですけど。
Commented by acoyo at 2005-04-06 14:05
★050405さん
いいなあ。私はフォード殆ど劇場では観てないんですよ。それが悔しい、ハワード・ホークスは名画座でよく特集組まれたんで見てるんですけど。
「ヤァヤァヤァ」は名画座夏の特集、中学生の頃通いました。
子供がいなくても、録りだめって結局、後回しにしますね。HDD一杯なのにレンタル屋に行く私は何(藁)。小津コンプ、がんばってくださいませ。
Commented by オンリー・ザ・ロンリー at 2008-08-01 20:36 x
何故かここに到着。始めまして。「西部開拓史」のフォードのパートでは農業が嫌いなG・ペパードは母C・ベーカーにいやいや許され「アイロンをかけ直し」てもらい、いざ!。飼い犬があとを追う。「着いて来てはだめ!」と追い払うプパード。木洩れ日からの陽光と相俟ってフォードならではのベスト・ショット。
因みに一昨年の暮、21才の愛犬を亡くしました。出会いがあれば別れあり。