Home Sweet Home
で、親に援助してもらうつもりもなかったので、かなり厳しいスタートだったと思う。
母親にしてみれば、それがどうにも不憫だったようで、結婚準備中にはしっちゅう愚痴を言われた。
こんな小さいアパートに住むの? こんな小さいお風呂? ねえ、お金なら出してあげるから、披露宴くらいやってちょうだい、お願いだから。
(お願いされて、結局それはやった)
そんなこんなと慣れない仕事に疲れ果てて、結婚前はみんなそうだろうが、私たちは苛々していたし、喧嘩ばかりしていた。
そんな頃、二人でふと、引っ越す予定のアパートを見に行った。
夕暮れ時、田んぼの真ん中の高架線の向こうに、小さなアパートがぽつんと見えた。
その時、カーラジオから、
とん・と・とん、というドラムの刻みが聞こえた。
高橋幸宏特有の、暖かい、心臓の鼓動のようなリズムだ。
あ、と思った。
大きい家 小さなアパート
人の住むところ どこも少しさみしいね
……思い出すと、相当気恥ずかしいが、私はものすごく感動した。
ここがHome Sweet Homeと矢野顕子が歌っていた。何があったって、何を言われたって、結婚しよう、そう決めた私は正しいんだ、そう思った。(ただし、新婚旅行中にはもう後悔し始めていた)
この歌で、私が一番好きなのは、
壊した家を出たくせに
今 私たちは 新しい家を作る
というところと
たとえひとりきりになったとしても
Home Sweet Home
と、矢野顕子ここにありとばかりに、誇らかに歌い上げるところ。
あの頃、私は、坂本龍一と矢野顕子に憧れていた小娘で、あんな夫婦になれたらなあと思っていた。大学を出てすぐ結婚したのは、どうやら、独身で居るより、結婚して好きなことをした方がかっこいいと思いこんでいたかららしい(藁)。当然、親は内心、「きっと出戻って来る」と信じていたようだ。
そして「幾戦争か過ぎまして」(中原中也)、憧れだった夫婦は別れたが、憧れていた方はまだ続いている(藁)。
同級生の中で、多分最後まで結婚しないだろうと思われていた私が誰よりも早く結婚し、いずれ別れると噂されていた私たちはまだ離婚していない。どうであれ、人の期待に応えられるのも嬉しいが、人の期待を裏切るのはもっと楽しい。
一応、同居人に尋ねたところ、彼もまだあの歌のことは覚えているそうだ。
Home Sweet Home ワクにはRCサクセション。 ♪ 昨日はクルマの中で寝た あの娘と手をつないで 市営グランドの駐車場 二人で毛布にくるまって カーラジオからスローバラード 夜露が窓をつつんで 悪い予感のかけらもないさ・・・ ・・・ぼくら夢を見たのさ とってもよく似た夢を・・・ <悪い予感のかけらもない> そんな言葉はもうワクの口からはでない。 ... more
この曲、忘れているので、さがして聴いてみます。
とってもハートに伝わる、いい話ですね。
ぼくも同棲同然の結婚生活をウン十年・・というところですが、そういえば行くともなく行った新婚旅行は箱根でした(笑)。日帰りできる距離でしたが、一泊しました(笑)。
もしかしたら、貧乏と長い結婚生活はいい関係なのかも知れません(泣き笑い)。
またいろいろ読ませて頂きます。
歌は知らないし同じってわけでもないんですけど私も人の期待を裏切りました。“半年もたない”と口々に言われた結婚ですが13年経った今も続いています。言った人ももう忘れてるって感じですけど(^O^)。
保たないと言われた結婚ほど保つという法則が成立するかどうか、ちょっと周囲を見渡して、検証してみる気分になりました(笑)。
K-nshさんのブログもゆっくり読ませていただきます。