役者に限界を要求できる監督が、邦画からまた一人消えた。

野村芳太郎さん死去 映画「砂の器」を監督

b0016567_19391073.jpg 野村芳太郎監督の作品というと、子供の頃にTVで見て、その後何度か見返した「砂の器」が圧倒的に印象に残る他(丹波哲郎の芝居もそうだし、やはりあの巡礼の親子の場面が圧巻)は、あんまり観てないんじゃないかなあ、白状すると。つうか、私は松本清張風社会派というのが苦手なもんで(あの謀略史観も込みでね)。

 ただ、NHKの昔のTVドラマに「事件」という国選弁護人を主役にしたシリーズがあり、若山富三郎の地味な芝居がとても印象的な名作だった。その総合監修か脚本を(もしかしたら演出も)手がけておられた。その中の一本が映画化されたときは監督されている。
 私は再放送で観たのだけれど、そのシリーズ中の一作では、松田優作がアクションスターから演技派へ「化けた」瞬間を克明に見ることができる。肺癌で余命幾ばくもない医者が愛人だった看護婦を殺したという設定で、抑えに抑えた、一切、感情を露わにすることの許されない、とてもきつい芝居だった。演ってた松田もきつかっただろう。被告人という役柄上、背中で芝居する場面が多かったし、アップによっても殆ど無表情のまま、ごく小さな仕草、視線の僅かなぶれや頬や肩の小さな動きだけで見せる演技が主で、凄まじい集中力が要った筈だ。

 私は、「家族ゲーム」以降、「化けた松田優作」の芝居の真骨頂は、映画ではなく、このドラマだったと思っている。

 それに野村芳太郎がどこまで関わったかわかんないのだが、実際、「砂の器」のキャスト全般の芝居も同じで、ああいう一見静かだが、時に、奥底に滾るマグマがちらと覗くような心理描写が撮れる監督というか、役者にそこまで要求できる、役者からそれを引き出せる監督というのは、今はもう殆どいない。大声で泣き喚き、髪振り乱すことが演技派の証明だと役者も監督も思いこんでいる。馬鹿馬鹿しい、そういうのはドサ回りの大根芝居と言うんだよ。(←昨日、「新撰組始末記」で市川雷蔵の一瞬の眼光芝居を観たせいか、言い口がきついなw)

 ご冥福をお祈りします。


余談
 ちなみに、うちの同居人は、横溝作品では野村監督の「八つ墓村」が好きである。私は、「もうプログラムピクチャーだよ遊んじゃえ」の市川昆の方が好きなんだが、彼曰く、「映画自体はそうなんだけどね、ただ、渥美清の金田一がすごくよかった。渥美清の底力ってのを痛感した、これだけの役者がどれだけの可能性を犠牲にして寅さんをやり続けたのかなあと思うと、なんかしみじみするんだ」

野村芳太郎監督逝去(web-tonbori堂)
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by acoyo | 2005-04-08 19:40 | 映画・ドラマ | Trackback(4) | Comments(11)
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Tracked from kazkaz diary at 2005-04-10 18:19
タイトル : [Dz/ǵ] ¼˧Ϻ¤
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Tracked from 文屋 at 2005-04-11 23:23
タイトル : ★野村芳太郎監督の「張込み」は、高峰秀子という「女優」を..
べつに亡くなったからではないが、ぼくは野村芳太郎が撮った映画 「張込み」が好きだ。 女優が際だっている。その昔、この映画をはじめてビデオで見たときに、 高峰秀子を恋しく思った。 逃亡中の犯人の愛人が、いまは、公務員の家庭に嫁いで つつましやかに暮らしている。 その暮らしを、張り込んだ刑事ふたりが、じっと見つめる。 見つめているうちに、ほんのりと恋慕する。 それは、描かれてないのだが、見つめることで、映画を見る観客の心が 登場人物の刑事の心を透かす。 淡々としていながら、スリリング。 物語は、ほと...... more
Tracked from Art Grey at 2005-04-27 02:49
タイトル : ‘沈黙の監督’<BR>野村芳太郎様追悼…遅れ馳せながらログ♪
故・野村芳太郎監督への追悼ログ…大変遅くなりましたっ!... more
Tracked from 太陽がくれた季節 at 2005-06-24 20:31
タイトル : ◆◆『砂の器(1974/野村芳太郎)』デジタルリマスター..
●6月23日・木曜日(※4月12日のエントリーに追記/★旧題:印象深い桜のある映画・序章~故野村芳太郎監督に捧げる) こんにちは~、 ...さてっ!(^^) 昨日(6/22)の晩、 当ブログと相互リンクを頂いております、「SNAP in Kinki」のmaruyamaさんからコメントを頂きました、しばらくある感慨に浸ってしまいました... maruyamaさんは現在、関西にお住まい、 この日、『砂の器』のデジタルリマスター版を大阪で御覧になられたとのこと! ―以下...... more
Commented by KAZZ at 2005-04-08 20:40 x
野村芳太郎と言えば「砂の器」「八つ墓村」は避けて通れない世代です。
「砂の器」はAcoyoさんのおっしゃる通り日本のベテラン俳優の底力を見せられましたね。私は追う刑事役の鶴田浩二の渋さにも参りました。
「八つ墓村」は公開当時、松竹の専属館で見た記憶があります。
“寅さん”の渥美清の金田一が石坂浩二のそれと違って、主役然としていないのに、当時高校生の私は納得いかなかったのですが(もちろんTV版の古谷一行とも比較してた)、寅さんの匂いを消した芝居をするリスクがまだ許された時代だと思うと感慨があります。その後松竹は渥美清の逃げ場(カメオ出演さえ)を奪ったのかとさえ思う最近です。

野村監督は「事件」「配達されなかった一通の手紙」「点と線」等々、脚色物且つミステリーの稀代の手垂れ監督でした。合掌。

追記
雷蔵を見た後にTVの芝居を見たら、そりゃあ比較になりませんって・・・
Commented by tonbori-dr at 2005-04-08 22:36
ありゃ?コメントいれたのに消えてる(泣)
また一人いい作品を撮れる人が鬼籍にはいってしまいました。

追記こちらも野村監督追悼エントリをあげましたのでリンクいただきました
Commented by kiyotayoki at 2005-04-08 22:43
野村芳太郎さんは、最近よくTVで宣伝していた「渥美清の泣い
てたまるか」のメイン脚本家でもあったそうですね。
コメディからシリアス劇まで幅の広いお仕事をなさってたんです
ね。85歳ですか・・・。
精一杯生きられたのでしょうけど、やはり残念です。
Commented by acoyo at 2005-04-08 23:08
★KAZZさん
「八つ墓」の渥美の凄さってのは、やっぱ年食って見返さないとわからないと思います(つうか、同居人が観たのはTV放映だそうですw)
渥美さんご自身は寅さんに殉じるつもりで、それはそれで幸福な役者人生だったと思いますが、ファンとしては勿体ないですね。それと雷蔵、いやあ、久しぶりに爪の先までの芝居観ました。おまけに華ありまくり(藁)。

★tonbori-drさん
あ、消えてました? どしたんだろーすんません。tonboriさん上げるだろうなあと思ったんで、当然リンクいただきます(藁)。コメントはそちらに。

★kiyotakiさん
記事上げてから調べてみたら、ホント、幅が広い。口幅ったいこと書くんじゃなかった。いい仕事をなさった監督が亡くなって、それはそれで仕方ないんですが、問題はその財産がどう引き継がれるかですよね。今の邦画界はそれがとても不安。
Commented by forest-sea at 2005-04-08 23:45
「鬼畜」・「砂の器」。そんな中でも「震える舌」を熱望してんだ。
死んじまったのか、そうかあ。
Commented by るき at 2005-04-09 01:11 x
「砂の器」親子の場面では滂沱のごとく涙が...
「化けた松田優作」私も目撃しましたぁ!再放送何度かありましたよね。まだ新人だった時任三郎も出てました。
Commented by acoyo at 2005-04-09 20:28
★forest-seaさん
ああ、そうか「鬼畜」もそうだったんだ。緒形すごかったなあ……。お亡くなりにならはったんですよ。はい……。

★るきさん
おお、あれをご覧でしたか。良かったですねえ。そうか、時任も出てたのか。私は岸恵子が出た分も印象的でした。
Commented by samurai-kyousuke at 2005-04-10 06:40
コント55号の映画のメガホンも取られていたんですねー。知りませんでした。ちょっとびっくりです。
ご冥福をお祈りいたします。
Commented by jaguarmen_99 at 2005-04-10 12:55
これホント全然分からないんだー。でも悔しいから書いてみた。ゴメンナサイ(ノД`)。レスつけなくて結構ですので。
Commented by Yasuo_Ohno at 2005-04-10 20:07
こんばんは。はじめて書き込みました。「鬼畜」は2回見ましたよ。「砂…」や「張り込み」と比べると小品ですが、「鬼畜」はおやじ的には★★★1/2でした。亡くなったことで、名前もやがて忘れられてしまうのでしょうか。残念です。
Commented by acoyo at 2005-04-10 21:03
★jaguarmen_99さん
ご覧になったら泣くと思われ、「砂の器」。

★Yauo_Ohnoさん
あ、どもども。ええ、野村さんなんか忘れられそうなタイプですねえ。残念です。