わたくしとデヴィッド・リンチ まだまだ試論でさえない(藁)

デヴィッド・リンチの「ストレイト・ストーリー」

 書けない……。
 リンチ(身内での呼称は「小人のデビー」あるいは「リンちゃん」)についてはもう何年もまとまったものを書こうと思いながら、書けないでいる。近しすぎるからかしら(Homicide life on the streetについても書けないのはそのせいか)。
 
 近しいと言っても、私は別に彼のように、一日ががりで蠅の死骸を集めて油絵にくっつけたり、猫の解剖キット作ったりはしないよ。私は地味に人生を歩んでいる小市民です。
 
 リンチとは実はTP以来で、ブルベルも象男も後追いで観た。それより先に「砂の惑星」はビデオで観てたけど、目当てはスティングだった。美術には度肝を抜かれたが(あれは「ブレードランナー」以上にぱくられまくってる、特にゲーム)、それだけと思っていた。それが……と、こうやって始めると、まとまらない大論文になる(藁)。仕切り直そう。
 
 私は変な子供だった。
 残酷なもの、気持ちの悪いものは人一倍怖いのに、怖ければ怖いだけ、ふらふら引き寄せれれて凝視してしまうところがあった。学生時代、少女漫画を描いていた頃も(笑ってちょうだい)、変な題材が多かった。周囲の友人には評価してくれる人もいたが、気持ち悪い!と断言する人も多かった。先生に見られて、「何か悩んでるの?」と言われたこともあった(無論、お年頃だから悩みは多かったが、それと絵の題材とは関係ナイ)。
 そういうところはできるだけ隠さなくちゃと、乙女心に思ったよ。何言われるかわからないもん。私、フツーの女の子に見られたいもん。
 それが大学に入った頃から負けずに変な学友たちに恵まれ、そんな「身内」の間では心おきなく互いの「変」をさらけ出し合えるようになった。だが、クラスメイト程度の相手だと、執拗に隠した。今の同居人と出会った時も、かなり長く隠していた。
 それは、自分で自分のそういう部分が怖かったんだと思う。 
 それがリンチと会って、すこーんと悟りました(藁)。

 いえ、今でもフツーのおつきあいの人には隠しますよ。会社に入ってからも、後輩に○○さんの家に行きたあいとか言われると(ほら、新婚数年目だったんで)、壁にかけたリンチ撮影の写真*1は外したし、近所の奥さんから「レンタル屋行くけど、面白い映画ない?」と訊かれ、「ワイルド・アット・ハート」なんて言えますかいな。レッテルを貼られると面倒だし、己の個性を声高に自己主張したい年でも無し(藁)。
 でも、自分に対しては平気になれた。グロテスクなものに惹かれる自分に対して、大らかになれた。あのリンチのネアカなダウナー精神というか、あっけらかんとした変態性というか、犬の死体を解剖する自分を晒せる太さというか……書けば書くほど、バカだね、この人はほんとに。ともかく、そんな彼が私を楽にさせてくれた。いいんだ、私、これで。
 そういう意味で、リンチは私のセラピストだったとも言える。(その前のS・キングというのも実は潜在的に布石になってるんだけど)

 私はpureという言葉が嫌いで(あれは状態を示す言葉で、存在に籠もる意志が感じられないので)、innocenceという言葉に拘るのだが、私にとって、リンちゃんはそのイノセンスそのものだ。
 ラップに包んだ死体、ないすざんす、と思って撮り、じいちゃん、耕耘機でアメリカを渡る、ぐーじゃん、と思って撮る。そこに何の媚びも計算もない。関心のあるものにまっすぐに飛んで行き、道ばたでしゃがみこんで何かを見ている子供のようなものだ。(私は基本的に芸術監督より職人を評価するが、リンちゃんはまあ、作家だろう、どうしようもなく)
 だから、リンチは笑える。だから、リンチはほっとする。うっとりと、彼のグロテスクな夢の中で、幸福な時間が過ごせる。(だから、万人にお薦めはしませんよ、もちろん
 
 最後に、私は「イレイザーヘッド」をTP景気のサウンドリマスター・リバイバル上映で観たのだが(あれはリンちゃん若気の炸裂編で、凄すぎ。DVDも買ったけど、さすがに見返す気にはならない)、そのパンフレットに、ある評論家が、小学校6年の時にこの映画を初めて観た、と書いていた。
 私は嫉妬しましたね。小学生のときに、まだ人格形成期の内に「イレイザーヘッド」を観ることができたなんて、さぞかし素敵な悪夢が見られただろう。いいなあ……。
 
*1 粘土細工の顔くん。David Lynch com.の表紙にも使ってた。見慣れると可愛い。
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by acoyo | 2004-09-23 01:31 | 映画・ドラマ | Trackback | Comments(13)
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Commented by past_light at 2004-09-23 01:53
「最近何がよかったですか?」と、とある勉強会で、(秘密結社みたいでリンチっぽいでしょ)シネマ関係の欧州メインな雑誌の編集者の人に聞かれました。。「ワイルド・アット・ハート、よかったです」と、言いました。予想したとおりの沈黙でした(笑)。
Commented by acoyo at 2004-09-23 02:06
あ、トラバのお礼言おうと思ったら、先にコメントが来ていたわ。
本当、TP景気の時ならいざ知らず、リンチは下手に薦められません。それこそ、秘密結社の符号確認の後ですね。
Commented by こぎつねはこんとなく at 2004-09-23 02:19 x
リンチで思い出すのは「エレファントマン」の封切り時の宣伝文でやたら感動を前面に押し出していたことです。
真に受けた私はいわゆる病気ものが嫌いで見に行かなかったのですが
あとでリンチを知り、この映画の監督であったことも知りあわてて
ビデオで見ると
「ぜんぜんヒューマンちゃうやん」
と思いました(一般的な意味でですよ)…。
好きですリンチ。
Commented by acoyo at 2004-09-23 02:24
あら、こぎつねはこんとなくさん、おひさしぶりです(笑)。
そーですか、リンチ、お好きですか。
お人柄が忍ばれます。奥様によろしく。
Commented by Kyoto-Eco at 2004-09-23 03:38 x
先生に見られて、「何か悩んでるの?」といわれたことも...
この文、大うけ!(笑)
リンチが好きっていうのは、ビートルズが好きと同じくらい地雷原で、勇気
のない私など、びびってしまいます;
うっかり好きって言うと、山ほど語られるし...;;
akoyoさん、リンチとカイル君はセットっしょ? さけた?
『ブルーベルベット』の最初の絵で、垣根(前庭?)に咲いてた花は何でし
たっけ? 蟻つき耳も、乙女のツボだったと思います♪
Commented by acoyo at 2004-09-23 10:50
蟻つき耳は乙女のツボ……(大藁)
カイル君のことは、な、何なのかなあ? こどもだからわからないわ。
Commented by k-nsh at 2004-09-23 10:57 x
リンチって名前は知っているけどそれ以上知らない私はちょっと仲間に入れないかも? でもデューンの主役の彼はどの映画も共通した冷たい表情?ちゅうか同じような目が私の関心を引いたけれどね。
Commented by acoyo at 2004-09-23 11:49
ああいう顔好きなんです、あの人、k-nshさん、いつもながら観察鋭い。
Commented by romeron at 2004-09-23 23:39
私はマクちゃん目当てで「砂の惑星」を見ました。
昔日本で車のCM出た時ビデオに撮ってみてました。
若気の至りでございます。「ショーガール」では汚い
ケツをさらしておりましたし。るん♪
「ストレイト・ストーリー」はなんとなく「ブルー・ベルベット」
のラストの「幸せな食卓」の続き、という気がしました。

>リンチは私のセラピストだった

分かる気がします。私にとってそれはロメロなので。
Commented by acoyo at 2004-09-23 23:57
romeronさん……うう……白状しよう。
私は今でも好きなんだ、いや、若い頃の面影を抱いてだけどよ。
Commented by romeron at 2004-09-24 23:50
すいません、私も今でも好きです。今の顔もすげぇ
好き♥ ショーガールのえげつないカイル、堪んな
かったっすよ。もっとああいう役やって欲しい!
Commented by ルー at 2004-12-14 19:38 x
リンチ溺愛人間ですw
「ブルーベルベット」と「マルホランド・ドライブ」のリンチブルーが大好きで。「砂の惑星」を観ました。リンチは私には癒しです。
Commented by acoyo at 2004-12-14 23:06
ルーさん、いらっしゃいませ。
そちらのブログも読ませていただきました。なかなかヴォリュームたっぷりの内容で羨ましいです。コメントを書こうと思ったのですが、楽天メンバーでないと無理とのことで、残念でした。
またいつでもお越しください。