よしながふみの『フラワー・オブ・ライフ』は、それこそ花咲ける天国の話だ。

 ええと、すいません。人並みに仕事と家事に追われ、ここんとこ、ネットは完全に近いほどご無沙汰でございました。何も書いてないのに毎日覗いてくれた方、まことにすまんこってす。ホントにホントにごめんな。戻れる時にはきっと戻ってまいります。何故って、自分が寂しいからに決まっておるがな(藁)。仕事のメールと電話で、後は洗濯機回して米研いでるんじゃ、人生空しくなりまんがな。

 んで、最近、よしながふみの漫画を読んだのね。
 彼女のことは前も引用したけど、その一番新しい作品、「フラワー・オヴ・ライフ」(彼女はやおい上がりですが、これは全然そうじゃないですんで、一応)
 この作品はですね、世の中にこんな「モノのわかったいじらしい、そんでかわいげのあるアホガキ」ばっかり集まってるガッコがあったら私だって教師したいよというくらいな、クロマティ高校*1とは違った意味ながらもやはりパラダイスな学園モノ。主人公は白血病が治って高校に復学した子。そいつはすっげえ正直で、「侠気」命ないいやつなんで、その自分の病気のことをしょっぱなの自己紹介で明るく爽やかにぶちまけてる。
 で、心に残った箇所ってのは一杯あるんだけど、特にその主人公がちょいと連れとトラブった時に、担任の女性教師が言う台詞な。俺間違ってねえもんという主人公に、彼女は言うのさ、
 そうね、今のあんたの言うことならみんな聞くかもねって。「何たってあんたは白血病という悲運を乗り越えた、みんなよりちょっと偉い少年だもん」
 トーゼン、侠気少年はそんなつもりじゃないと反論する。んなこと教師だってわかってる。でもね、
「あんたが自己紹介で自分が白血病だったって言ったときから、あんたは人間関係においてそのヘビーな過去の分、みんなより強者の立場に立ったのよ。
あんたにそのつもりはなくても、それはそうなったのよ。
病気のことを正直に話すのが悪いって言ってんじゃないの。ただ、自分が言ったことで相手が多少気を遣うだろうなくらいの想像もできなかったとしたら、あんたは馬鹿で子供で無神経だわ」
 ごもっともでございます。……そうさ、そうなんだよね、つうことで、だが、この手の問題にはもう一つの命題がある。
 それは、その先生が、先の発言をする前、彼が抱えた連れとのトラブルについて最初に言った言葉の中にあるのね。
「あんたの思いやりは幼稚園児並なのよ。『自分がやられて嫌な事は人にもしない』
そんなことはできて当ッたり前よ。自分にとって平気な事でも他人にとっては耐え難い事になるって時もいっぱいあんの、世の中には」

 この二つの台詞は、すっげえ重いことを言うておるんだけど、それをこれだけさらりとわかりやすく単純に、それも一つの台詞の中で語りきってる。ほんまに、よしながふみはネームがうまい。

 前に書いた「同情がムズい」ってのは、それを上の台詞と下の台詞の際どいバランスの中で発動させなきゃいけないからなんだよね。
 だからこそ、結局、自分がちゃんと大人になんなきゃきちんと同情もできないし、何もしてあげることもできないってことなのさ。
 大人ってのは、最低、この二つのことは弁えてるってなきゃなんないんだよな。ほんで、弁えてるってのは、日々その考えの基に行動できるってことだもんねえ。嗚呼、大人ってむずかしー、と万年少女のわたくしは考えこんだりするわ。
(幾つだ、あんた、とか突っ込まないように。そんな風に、自分の脳天気+マヌケ=チャイルドさ加減を、永遠の少女って線でどうよと小賢しくも言い換えしておるのだから)

 そんな大人の常識中の常識だけど、実は、わかったつもりでわかってない大人の方が多い。この台詞のきびしさが実はすっげえ優しさだっての、わかんないやつ、多いもん。こんなことまでわざわざ言ってくれるのって、ほんとの親友か本気なセンセーだけだよ。生徒殴って愛の鞭ってほざいてるセンセーにこんな台詞が吐けるかよ。
 んだから、この漫画の中の学園がパラダイスだってのは、そこなんだわ。出て来るコーコーセーもセンセーも、みんな、それがわかってるってこと。少なくとも、そう言い聞かされたら黙って己を恥じる子たちなわけ。
 だから、読んでるとすごくほっとするんだ。

 んで、私はこの二つの台詞に「そーだよー、そーでしょー、前からそー思って言ってたのよー、俺はー」と意気込んで前のめりに言う人じゃなく、「そうだよな。そうなんだよあ」と呟いて静かに肯く人の方がなんか、信用できる。
 前のめりに言う人ってのは、結局、自分の中でこの二つの言葉のどっかに大きく傾いでる気がするのな。そのバランスが肝心なんだってのに気付いてない気がするのな。
 だから、そのバランスに日夜苦慮しておる人に、あり方が「大人」な方に読んでもらいたいんだわ、この漫画は。よしながふみの漫画は。

 いや、別にこの手の話ばかりじゃなく、コーコーセーのどたばたや、オタク心をくすぐるネタもさりげにばらまかれております。少なくとも、私は会話の端々に長い付き合いの連れ連中を思い出し、その点でも心和んだりしております。(例えば、漫研になんでこんなに人が少ないんだという話で、既に、その手の女子は文芸部か美術部に、男子は何故か天文部に入ってるからだという台詞にも、私は転がって笑いましたわ。ええ、その手の美術部として天文部の男の連れとしゃべくってた身としては)
 ちなみに、私は「自分がバカになった理由を理路整然と説明できる」、キング・オヴ・オタクの真島に惚れてるのさ。メガネ系美青年という、古典ツボだったりするし(爆藁)。高校の時にこういう男が居たら、絶対、追いかけてるぜ。そいで結果的に親友におさまっちまって苦悩するのね、きっと(涙藁)。

 なお、「愛すべき娘たち」ってのも、特に女性の方にはお薦めです。働くこととか、結婚のこととか、女親とのこととか、要するに女の子が大きくなって、自分の人生を自分でどう選択するかってことについて、きちんと書いてます。どのエピソードも秀逸だけど、私は、中三時代の親友三人組のその後を追ったのに泣きました。「あきらめない人が居た」ことで救われた瞬間ってのは、確かに私にもあったんで。


*1クロマティはクロマティで、実はあれは、「ものすごくモノのわかった愛すべきバカ」のイノセンス・ストーリーだと思うんだよね。ええ、あれも心和むっす。かつての稲中同様に。


9.22追記
後になって、自分がうまく書ききれなかったせいで、もしかして気を悪くした人が居るかもとか思ったんで、あせって書いときます。
あの~、私が書いた「前のめり」ってのは、なんとなく「うるさく言う」って感じなんだよね。「声高」と言ってもいい。
でも、この台詞が言われたシチュエーションってのは、とても静かだった。
たとえば被害者とか加害者とかどっちの側に自分があるにせよ、「そんなつもりはなかったんだ」んで、世の中通らないことがあるのよ、それは仕方のないことなのよ、大人になるにはそのにがーいとこわかんないとねというニュアンスなんだと私は思ったです。
そこで「そーなのっ!」と声高に反応しまうと、その微妙なニュアンスが消えるなと思ったんです。「そーなのっ」と大声で言って机叩いた途端、それでそう思わせた誰かを糺弾することになる。
これはそういう台詞じゃないと私は思ったです。悪いことしてないのにと悲しんでる生徒に向かい、「そっかあ……でもさ、実際どうなのかな? 人を怒る前に、あなたはどうなの。自分でわかってないだけでほんとはひどいことしちゃってるのかもよ」と厳しく、でも優しく言ってるのね。
私が前のめりで「そーなの!」って言うのがちょっとな、と思ったのはそういうとこです。この台詞がすっごく胸に染みる、ってのとは違うレベルです。


『フラワー・オブ・ライフ』(よしながふみ/新書館) 既に2巻まで出てます。
『愛すべき娘たち』(よしながふみ/JET)
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by acoyo | 2005-09-21 17:44 | | Trackback(2) | Comments(10)
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Tracked from わがままにひとりごちてみる at 2005-09-22 10:38
タイトル : この人の感性が好き
よしながふみの『フラワー・オブ・ライフ』は、それこそ花咲ける天国の話だ。 acoyoさんのブログからTBなんですが 『あんたにそのつもりはなくても、それはそうなったのよ。 病気のことを正直に話すのが悪いって言ってんじゃないの。 ただ、自分が言ったことで相手が多少気を遣うだろうな くらいの想像もできなかったとしたら、 あんたは馬鹿で子供で無神経だわ』 『自分にとって平気な事でも 他人にとっては耐え難い事になるって時も いっぱいあんの、世の中には』 よしながふみさんとい...... more
Tracked from スタジオハルク at 2005-11-05 16:26
タイトル : ナチュラルにグダグダ
黄昏れておったのですが馳星周をむんむん読んでむんむん力を取り戻しました。長恨歌を積んだまま不夜城を読み返しているわたしですこんにちは。高村薫の「新リア王」上・下も積まれました。自分で自分の首をしめている。 給料が入ったばかりとは思えぬ金の無さです。週末は3千円で過ごすモン!と心に誓った筈なのに、今日1日でまんがまんがまんがとすべてまんがに変換してしまった。相変わらず過労度と浪費度が比例している。 業だ。(業じゃねえよ) あこさんおすすめのよしながふみ「フラワー・オブ・ライフ」1・2巻...... more
Commented by umaco at 2005-09-21 19:26
(爆)アカン アカン 危ないですやん>「洗濯機回して米研いでる」
意外と大技をお持ちのようで 
洗濯機はやっぱり仰向けに寝転がって足で回すのでしょうか?
Commented by tonbori-dr at 2005-09-21 22:47
しごく真っ当な台詞をかましている漫画があるってのはなんかいいなあと(^^)
Commented by samuge-nikukyu at 2005-09-21 22:56
すんごいタイムリーによしながふみを借りて読んでたのでびっくり。
わたしの読んでるのおもいっきりやおいでしたが(笑)
「フラワー・オブ・ライフ」読んでみよ~。個人的には「愛すべき娘たち」のほうが気になります。
Commented by umaco at 2005-09-22 00:10
あー すいません本題から外れたうすらトボケたコメントしてしまいました(いつものような気もしますが)
件の台詞いいですね 思いやる事の難しさが良く表れていると思います ブッシュ君にメールで送ってみますか
「おーい、誰か訳してくれぃ」
Commented by satsuki at 2005-09-22 03:50 x
…真夜中に来たので、さっぱり文章が頭の中に入らないw
また、改めて来ます。
なんちゅー、コメント・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
Commented by manyana at 2005-09-22 03:50
引用されているセリフ、こんな風にスッパりサッパり言われると、なんかガツんと来ますね。

>自分がちゃんと大人になんなきゃきちんと同情もできないし、何もしてあげることもできない

うーん、耳(目?)が痛い(^^;)
Commented by acoyo at 2005-09-22 20:44
★umacoさん
いえね、洗濯機を回す時は、鎖につけてそのままぶんぶんふり回します。その遠心力でお米をとぐのです。HPもMPを激しく消費しますんで、1日一度が限界の大技です。。
つうことで、お気にならさず、そういう突っ込み好きです(藁)。ブッシュ君にメール、いいですね。ただし、彼の場合、英語に訳しても何を言ってるかわからないかも。

★tonmboriさん
むしろ、台詞回しのうまさは、本より漫画の方が上ですよねえ、今。

★samuge-nikukyuさん
よしながふみは、最近数少ない全部持ってる漫画家ですね。ええ、モロやおいの頃に、そのやおいの連れに熱烈推薦されました。彼女の描く底意地の悪い男が好きです。だもんで、真島はやらん(要らないって?w)

★さっちゃん
私の文章が読みづらいのはその通りであろうと思うが、でもちょっと休みなさいってば。

★manyanaさん
すっぱり言われた方が、後々まで考えるようになりますよね。
年齢的にとっくに大人で中身は全然のわたくしですから、それは希望的発言です(藁)。だったらいいなあと。言ってる自分が一番耳が痛い(涙)。
Commented by eia_1 at 2005-09-22 22:23
コメント、ありがとうございました♪
もしかして、この追記、私のTBを見たために書いたのでしょうか~?
余計なご心配をおかけしちゃったのかなぁ?
ごめんなさい。
私はacoyoさんの、ものの考え方、感じ方が好きで、
acoyoさんのブログを読んで、自分でも
いろいろ考えてみるきっかけにしています。
なんか、上手く自分の思いが文章にならないので
コメントを書くよりTBさせていただいたんですが、
全然、気を悪くしたとか、そんなことはないので・・・
変に気を使わせてしまってごめんなさいでした。
これからも、私に、いろいろ考えるきっかけを与えてくださいねー。
また、ちょくちょく覗かせていただきます♪
Commented by jaguarmen_99 at 2005-09-23 15:23
後者のセリフは耳が痛い、と思いましたが「その通り」だと思う。で、これを言ってくれる人はスゴク強くて優しい。耳障りの良い優しさなんか要らんのよ、本当は。何でも認めてくれるんじゃなくて、差異を等価値で表現してくれる人ってのは憧れます。
クロマティ>バンチョーちゃん、どうなるのだ。
Commented by acoyo at 2005-09-27 11:45
★eia_1さん
ほんと、丁寧なTB打ってくれて、ああいう風に話を自分の側に引き寄せてもらうのはすごく嬉しいのに、返って気を使わせてすいません(涙)。こちらからもまた寄せていただきます。

★jaguarmen_99さん
あの後者の台詞については、わかる人とわからない人って劇的にわかれるみたいで、似たニュアンスのことを言うと、時々目をむかれます。
なんでもかんでも背負いこむのはたしかにバカみたいだけど、これってごく常識的な人との付き合い方だと思うんだけど(自分はまだまだできてないけど)、なんかなあ~。ねえ?