黒木和雄は、私が最初に夢中になった日本映画の監督だった。

黒木和雄監督が死去、75歳脳梗塞

 いきなりでなんですが、ここ数日、つうか一週間くらい、自分の方ですごい問題抱えてましてね。苦しいの、わたくし。一人で泣いてたりしてな。
 だもんで、この黒木さんの訃報についてもずいぶん出遅れたから、スルーしていずれってことにすっかとも思ったんだけど、やっぱ書いておこうと思う。
 ホントに、ホントに、お世話になった監督だから。

b0016567_15145779.jpg この人の『竜馬暗殺』を観たのは、高一だったと思う。一人で観に行った。
 勿論、まだ、一人で映画観に行くことなんか許されてなくて、親に内緒で行った(悪かったね。そういう家だったんだよ、それがアリになったのは予備校んときよ)。
 リアルタイムの上映時じゃないよ。それよりずっと後で名画座でさえなく、どっかのホールで「日本映画週間」とかでやってたので観たのさ。
 私は松田優作と原田芳雄が共演だって理由だけで、何の知識も無く行った。ネットなんかない時代だし、キネ旬とか真面目に読んでるヒトでなきゃそんな映画の周辺情報手に入らなかったもん。んで、私の愛読書はロキノンで、キネ旬はロクに読んでなかったしさ。
 試験明けの学校半日の日か何かだったんだろうな、制服着てたから。がらがらのホールは寒かった。上映前に大急ぎで、買ってきたカツサンドを紙パックのコーヒー牛乳で流し込んだのを覚えてる。

 ATGの映画っての自体、それが初めてじゃなかったかな。何せ私、あいにくと角川世代だし。
 まあ、ATG*1ってのは、70年代的鬱屈で、要するに相当全共闘で鬱陶しいとこもあるんだけど、ちょうどいい年頃で観たと思う(藁)。(←その辺の気分はAt seventeenに書いた)
 黒澤とか小津とか、そういう巨匠みたいじゃなくて、もっと身近な感じがした。
 その年頃の、コーコーセーの私が、本当に観たい映画だった。

↓ツヅク



 だって、かっこよかったんだよ。
 クールな日本映画なんて初めて観たんだよ。
角川映画には絶対無い匂いがしたんだよ(無論、角川にもクールなのは「数本」ある)。「ああ、これが映画なんだ」って思ったんだよ。

 制服を着て固い椅子に座った小娘の前に広がったのは、ざらっとした質感の白黒の世界だった。ああ、いかにもATG(藁)。
 見事な幕末の青春映画で、だからこそ、ガキの私も、明治維新とは若い連中の暴走から始まった、紛れもない革命*2であることが、初めて、すとん、と腑に落ちた。あの映画には、そんな時代に煽られて、焦れまくっている若さというものが焼き付けられていた。石橋蓮司がむちゃくちゃセクシーで知的な、うまい役者なのを知ったのも、この映画だ。
 あの映画の中で私が見たのは、スターの松田優作や原田芳雄じゃなかった。
 京都の薄汚い路地裏をばたばた走り回る、かっこいいけどどっかみじめったらしい「連れ」たちだった。滅法クールで不精な竜馬、パシリのテロリストに心配性の秀才膚、あばずれねえちゃんたちが、やることなすことうまくいかず、焦れて馬鹿騒ぎしては落ち込み、それでも懲りずにまた走り出そうとして、無様に殺されてゆく様が描かれていた。
 そういう人たちが、なんか三年の先輩みたいに身近なあんちゃんたちが、イラつくお年頃の私のすぐ横を走り抜け、ばたっと斃れた、そんな膚に来るリアリティのある映画だった。

 だから、今、みんなに是非観てくれとは言わない。あれは高校生だからストレートに「来た」んだよなあと、こないだ観返してそう思った。(今観て悪いって意味じゃないけど、『浪人街』あたりからの方が無難かと) 
 当時、私が電話で「ロックな映画だ」と大騒ぎしたもんで、慌てて翌日観に行ったバカである、例の在米連れ曰く、「あれやな。『竜馬暗殺』ってのは、俺ら身内の『明日に向かって撃て』で『イージーライダー』なんだよな。出来の問題じゃなく、どっちも俺たち、観るべき年頃に観はぐれたもんな。思い起こすとちょっち恥ずかしいけど、心のダイアモンドな映画ってあるやん。そういうのな
ところで、同級生のお嬢さんたちは絶対に観てくれなかった。何でだ、あれだけセクシュアルな男たちが出ておるのに

 ホント、この人が居なければ、私は今以上に邦画を観ずに過ごしただろうなと思う。
 この『竜馬暗殺』に出会わなければ、『浪人街』は無論、『Tomorrow――明日』という私が観た邦画中で最高の反戦映画(と敢えて言う)にも会えなかったかもしれない。

 そういうことで、黒木監督、ホントにありがとうございました。お疲れ様でございました。
 ご冥福をお祈りいたします。

竜馬暗殺(キネ旬DB)
竜馬暗殺(超映画評)
黒木和雄監督、死去(日刊[考える葦]Returns)
書いてるだろうと思ってたら、書いてた(爆)。黒木監督が描いた「戦争」については、この方の過去エントリを読んでください。秀逸です。
4.30追加
キューバの恋人(かたすみの映画小屋)
私の戦争(〃)

*1 その分、ATGは、「物理的若さを鑑賞できる」年になってから観直すと、それはそれでいいっすよ~。ええ、20代後半とかはむっちゃきつかったけど(爆藁)。
*2 それは、大家の司馬遼太郎の『世に棲む日々』『燃えよ剣』なんかも実はびしばしそうなのな。明治維新ってのは革命で、革命ってのはワカモン=バカモンが左右に分かれて喧嘩して暴走するもんで、若いからすぐ大血塗れになる分、どっか上っ調子なお祭りなんだってとこ。例の大河の『新撰組』がどうもねえって言うのは、そんな幕末の青春、テロリスト(=ラストサムライなわけな。幕末の構図では)の青春と言うなら、そういう大家の小説で、あるいはこの映画なんかで「とーっくに観たもん、それももっと面白いもので知ってるもん」ってロートルのゴーマンもある。なんで『燃えよ剣』が今も売れるか、やおいの古典かって言えば、あれが見事な青春群像だからです。

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by acoyo | 2006-04-15 15:15 | 映画・ドラマ | Trackback | Comments(7)
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Commented by y_natsume1 at 2006-04-15 16:14
「竜馬暗殺」 僕は最近観ました。 原田芳雄も松田優作も石橋蓮司も、とても良い目つき。 あの当時の時代、みたいなものなんですかねぇ。 リアルタイムで高校生のときに観たかったという気が僕もします。
ATGも、こういうモノクロ映画も、そしてacoyoさんの在米連れさんの当時のお言葉も、すっごく好きです。
Commented by acoyo at 2006-04-15 16:23
あ、在米連れに言っておきます。褒められると天に昇るバカですから。
言えますねえ。リアルタイムなら、もっとすごかっただろうなあ(爆)。
まあ、遅れてとはいえ観た私のお年頃もよかったですが、確かに俳優も「そういうお年頃」ですわね。前に書いた「GONI」Nみたいに、そういう年にそういう映画に出会える幸運というのは、俳優こそむしろそうで、邦画の場合、それはホントに貴重だから、起爆力があるんだと思います。
Commented by kiyotayoki at 2006-04-16 00:30
確か大学入学のために上京したばかりの頃やってた映画ですよ、これ♪ただ、その時は見逃して、数年後に小っちゃな名画座で膝小僧抱えてるような気持ちでスクリーンに見入ったのを覚えております。
死線をさまよう者どもの生き様を描く作品だけに、どの俳優も目つき目の輝きが尋常ではなくて、魅せられましたねぇ。
Commented by jaguarmen_99 at 2006-04-16 11:51
ああ、やっぱり有名な方だったんですね…。すみません、本当にサッパリ分からない業界の事で…。(;Д; )
Commented by 森と海 at 2006-04-16 21:34 x
笑うなよ(笑)。取り上げるのはボクの務めと思ったんだ。過去3つも取り上げているんだし。
んーと、それからリンクの並べ方に難あり。プロの文章に後に並べるんでナイつーの(笑)。一行あけるとか配慮が欲しかったのら。
Commented by umaco at 2006-04-17 23:40
ATGのって意識してなくて 後からアレそうだったんだってのが多いです
しかもほとんどテレビで
さいしょはたぶん家族ゲームです (ひょっとしたらガキ帝国かもしれない)
などと調べていると70年代のものをほとんど見ていない事が発覚しました(笑) また見なきゃならないリストが膨らんでいきそうです
Commented by acoyo at 2006-04-28 18:20
ううん……冷や汗の出そうな遅レス……。

★kiyotayokiさん
膝小僧抱えるような気持ちって、わかりますね。名画座ってのはそういう感じの場所です。
>目つき目の輝きが尋常ではなくて
結局、私はそういう映画が好きなんだと思います。画面が「発情してる」ってのはそういう感じかと。

★森と海さん
笑ったる(藁)。プロの文章に並べたのはわざとではなく、単にあなたの文章が十分並べるに相応しいと思ったからなのだが、いや、これも本音だが、何か?(藁)

★umacoさん
私も「家族ゲーム」かもしんないなあ。それもTVだったと思う。
本文中にも書きましたが、70年代のATGって80年代~90年代には、すごく見るのがきつくって遠ざかってたんですが、今見るとなんかいいんですよね。今の「最先端風」映画より、やっぱ基本をないがしろにしてないっての感じます。