朝湯こんこんあふれるまんなかのわたくし  半径750キロの散策:山形#2 銀山温泉

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 タイトルの句は再び山頭火。

銀山温泉公式サイト

 この温泉は、マミーがやたら推薦するんで何の情報も無く行ったんだが、お恥ずかしいことに記事上げてKAZZさんが指摘してくれてから、気づいた。成瀬己喜男の傑作、『乱れる』の重要な舞台であった。
 そうだったのか、この既視感はそうだったのかと己の不明を恥じ、映画の神様にお詫びすることしきり。いや、最初にガイドブックで派手な写真を見た時は、『千と千尋の神隠し』の湯屋がまず頭に浮かんで、それがどうも離れなかったもんでさ。いや、着く直前まで、「いつも何度でも」鼻歌で歌ってたくらいで。

↓ツヅク



 んだけどね、こういう旅館は実際にはわずか五、六軒でね。「風情溢れる温泉街」は倉敷の街並みよりも瞬時に終わる。つか、そんだけしか残ってないのよ。
 まあ、深い杉の山並みに抱かれて忽然と、しかしこじんまりとある温泉だから、その程度でいいのかもしんないなあ。
 何せ、アホなわしらは、仙台からとか庄内から最上川沿いにという普通のコースでなく、庄内から出羽三山回って、ぐっと下から上がるという器用なコースを取ったせいか、「一車線の山道」を何十キロも行く羽目になり、カーブは裏六甲並に厳しいわ、白山スーパー林道並の深い谷(あそこのように渓谷は見えん。一面の杉だもん。でも、落ちたらどう転んでも助からんどころか、二、三日誰にも見つけてもらえそうにない点は同じ)だわで、対向車が来たらどーすんだと冷や汗をかいた。(かきながら、「いつも何度でも」を歌っていた)

 ともかく、いいとこです! んでも、一泊して慌ただしく次の目的地に移動するより、何もしないでぼーっとするために連泊するとこだよな。そいでな、有り体に言うと、決して、

 家族で行くとこじゃねえ。
 戸籍上の夫と行くとこでもねえ。

 映画で、未亡人の高峰秀子が義弟の加山雄三と行ったように、決して「夫」や「妻」とではなく、「男」ないしは「女」と行くのがお薦め。顔を隠さねばいかぬ相手、「密か男」とがベストですな。従って、今度行くときは絶対にシーゴラスとは行かんぞ、ふふ。

 つうて、マエストロ・ジュンイチ・ワタナベの如き、サライなポルノの「不倫」じゃ、これまた外れ。
 戦前の作家さんが描かれたような、「人に言えぬ恋」「実らぬ恋」というニュアンス。言わぬが花の世界にひっそり咲く月見草、のような恋の相手と行くのが相応しいかと。
 後は中年の作家が缶詰めになって、そこの未亡人の女将とか、清純な女中さんと「ひとときの恋」に落ちたりするのにも良さそうだな。

 うちは結局、この手の旅館は部屋が取れなくて涙を呑んで、ちょっと離れた新しい目のホテルに泊まった(ぶんむくれる嫁に、その晩のシーゴラスは奴隷と化した)。まあ、新しい分、綺麗で見晴らし最高な露天風呂があり、見事な杉の大木を間近に見て風呂に入れたのはよかった。しかもシーズン前つうことで、三回入って三回とも、広い浴場に私ひとりきりさ。も、朝一番で入った時なんて、極楽極楽。タイトルの句の通りよん。(これも湯殿山の御利益に違いない)

 でもな……二度目の真夜中に入った時よ。仄かな明かりに浮かぶ湯舟のお湯を見たならば、

 羽虫の水死体が、あら「タイタニック」。

 しかも、山形のパワフルな自然で育まれた虻だの蚋だのは、大きさが違った。

 ……ここにお越しの何人かの方は既にご存じのように、私は病的な虫怖い病(なのに山好きで住んでるのが不思議)。だから、普段なら、即座に絶叫して遁走するのだが、それでもその場では、杉の香と「私だけのひろーいお風呂」の魅力が勝ってしまった。
 だもんで、「えい、あっちけー、あっちけったらー! ばかぁっ!」と半べそかきつつ、手でどんぶらこと大波を立て、溺死体を遠ざけてがんばったさ。何でそこまでするのかとふと哀しかったが、それでも翌朝また一番で入ってしまうわたくしって、やっぱりどこまでも日本人。
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by acoyo | 2006-07-20 22:58 | 半径○キロの散策 | Trackback | Comments(8)
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Commented by samuge-nikukyu at 2006-07-21 00:54
ハク・・・!あこさん、ハクはどこっ!?このさい釜爺でも・・!!!
あーーーいいなぁ、行きたいなぁ!ステキな建造物って萌えますよね・・・

>今度行くときは絶対にシーゴラスとは行かんぞ
じゃ、じゃあ真島・・・?キイキイ!!
あら、二次元の相手しか思い浮かばn(略)
Commented by umaco at 2006-07-21 13:41
こういう旅館が似合う人とそうでない人というのもありそう(笑)
Commented by jaguarmen_99 at 2006-07-21 16:05
虫ね、本当に慣れてくるよ。日常からもっともっと虫を取り入れるために網戸なんかしちゃだめさ。
Commented by kiyotayoki at 2006-07-21 20:01
写真の雰囲気、どこかで見たようなと思ったら「乱れる」の舞台となった温泉だったんですね。映画じゃ、駅からバスに揺られてやっとたどり着くって感じで秘境っぽかったけど、今はどんな交通事情なんでしょ。
acoyoさんの文章読んだら、4、5年前、夏に山の温泉に泊まりに行ったときの出来事を思い出してしまいましたよ。
早朝、外の自動販売機に飲み物を買いに行ったら、わんさか虫がたかっててビックリ!中にでっかいカブトムシまで交じっててなおビックリしたのでした(^_^;)。
Commented by acoyo at 2006-07-22 10:37
★samuge-nikukyuさん
ハクはいなかっただよ。居たら、永住してるだよ、そのまま。
そよね。もっぺん、金使って行かないでも、私たちはいつでも二次元妄想で、この温泉にあのシトとランナウェイできるのよね。ほほ。
(しかし、真島向きじゃねえと思うぞ)

★umacoさん
そうか……私はきっと似合わないのだな。
いや、「似合う男」と一緒に行けばよいのよ、似合う男と! やっぱシーゴラスだからいかんのだわ。

★じゃがさん
それがさ、あたしゃ郊外という名の田舎育ちだから、子供ん時はバッタわしづかみ、蛙取りまくりだったわけ。それがある時からものすごく怖くなったわけで、これは取って死なせてきた虫と蛙の恨みだろうか?
網戸開けて寝てみなはれ。うちなんか、蚊で死ぬぜ。ぬるい西日本の山とはいえ、山育ちの藪蚊は根性あるんだから。

★kiyotayokiさん
やっぱバスみたいですね。送迎出してる旅館も多いです。最寄り駅ってどこなのかわかんないもん(爆)。仙台から行った方が近いみたいです。
自販機の虫はあなた、うちの家から歩いて一分の角店もそうですよ。夏、7時以降にそこにジュース買いに行くのはシーゴラスに行かせる。
Commented by tonbori-dr at 2006-07-22 21:15
結構こういう温泉もよかですな(^^)
けっこうひなびたところを狙って行ってるおいらですが時にはこういうひなびつつもどっしりなお宿に投宿してみたいものでごわす(笑)
Commented by KAZZ at 2006-07-27 12:39 x
ゴザに覆われた死体の、はみ出ている指に前夜の約束のコヨリが結んであって、それを見た高峰秀子は・・・。
鮮明に思い出す「乱れる」のラストシーン。
そこに辿りつくまでの温泉街の風情が溜まりません。
Commented by acoyo at 2006-08-01 19:09
★tonboriさん
近場だと武田尾がいいですよ。平日狙えば、まさにひなびつつも、ちゃんとどっしり系もあります。猪鍋がおいやでなければ(爆)。

★KAZZさん
うちにあるダビングDVD探してるんですが、何せ、録ってちゃんとデータ書いてないDVD多すぎ(爆)。じっくり見返してみたいなあ。