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ガキの時に実相寺に出会えた幸福


今TVドラマを観ててふと思うのは今の子供にはおいらたちにとっての実相寺さんみたいな人はいるんだろうか?ということ。
つまりは実相寺さんってのはそういう人だった。
web-tonbori堂ブログ

 というわけで、↓の喪中が明けても、ちょっと仕事でわさわさしててレスもつけられず(ゴメン!ゴメン!ゴメンナサイ!)、またネットもロクに覗かず、TVも観ないでいたら、これだよ。

実相寺昭雄氏が死去 「ウルトラマン」を演出

 私は彼の作品を、日本語もおぼつかぬ頃から観ていた。そんな物もわからない年頃でみて、何だかわからないけどこれは違うと思い、違うと思ったからわからないまんまずーっとずーっと心に残った。そいで年食って見返し、ああ、そうなのか! というその繰り返しだった。

 今でも覚えているのは、年代的には再放送なのだが、母と一緒に「故郷は地球」を観たときのことだ(うちの母は、ティーネイジに入るまで、私が観る番組は極力一緒に観るようにしていた。つか、私以上にはまってたりしたw)。
 そこであのなんとも言えない声で啼くジャミラ(赤ちゃんの泣き声を加工して使ったそうだ)を観ていて、私はとても不安になった。怪獣は悪もんでウルトラマンはいいもんで、その悪もんの怪獣が死ぬことが、何でこんなに居心地悪いのかわからなかったのだ。何せ、チビだったしね。だもんで、サジェストを求めるべく、傍らの母を見上げた。
 母は黙って泣いていた。
 私はそれに心底驚いた。
 当時の大人がウルトラマンを見て泣くなど、子供にとっては驚天動地の出来事だった。私はますます混乱した。怖くさえなった。
 番組が終わり、涙を拭いた母は、私に向き直り、娘にはまったくわかんないのを百も承知で、しかし大真面目に、「ギゼン」という言葉について語った。そして「フジョウリ」という言葉を教えた。
 当然、全然わからなかったけど、その二つの言葉と母の真剣さと涙と共に、ジャミラは私の中に棲みついた。
(ちなみに母は、トリトンの最終回のときも演説をかました。生憎とそういう人なのである)

 子供騙しという言葉がある。
 けれど、70年代のある時期、円谷にはある気概があった。それは当時の制作陣がよく語っていることで、「特撮ってのは一般的には下に見られるジャンルだけど、子供は本気で見ている。だからこそ、大人は手を抜いちゃいかん、だってこれって子供が観るんだよ。子供相手にこそ、大人はいい加減なことやっちゃいけないんだ」
 そういう認識があった頃の円谷の中でさえ、実は実相寺は「あんたやり過ぎ」だったのだが(藁)、彼は、大人が一歩も引かずに作れば、ガキにだって何かは伝わることを身をもって示した作家だった。ガキは侮れない、大人の本気がわからないほど馬鹿じゃないということを実証した作家だった。
(それに、下手な知恵のついてない、モノホンのガキの方が、シュールな演出には実は強かったりするのさw)

 彼は、子供にすぐにわかって楽しめるものを与えるだけでなく、ずっとずっとその子の中に残り、ある日、ああ!とわかるものをも与えた。彼は毎週、食い入るように自分たちのヒーローを見つめていた子供たちの幾人かに、考えることの種を蒔いた。
 その種こそが、子供にとってはたとえようもない宝物なんだ。一生、心に残って消えない何かなんだから。

(ついでに、そんな監督にさえ撮らせた円谷の気概は、後に「帰ってきたウルトラマン」中の「怪獣使いと少年」という凄まじい作品でもって頂点に達し、そして、消えた)

 私の中では、今でも時々ジャミラが啼いている。
 何故って、それこそが、私が最初に聞いた、まつろわぬ者、貶められ虐げられた者の叫びだったからだ。
 今日も世界のどこかで、泥濘の中でのたうち、ジャミラは啼いている。啼きながら、殺されていく。そして、「言葉だけは美しい偽善者たち」が、その死を悼む。

 実相寺は、まだ新聞もまともに読めない子供たちに、世界を様々な目で見る契機を与えた。世界はあなたが知っている狭い世界だけじゃないのだと教えた。
 それを教えることこそが、実は大人の義務なのだ。そう私は思っている。
 だから、私は、もののわかんねえガキの時に実相寺に出会えた幸福を、生涯感謝し、誇るだろう。そして、今も、私の中で、ジャミラはあの赤ん坊の声で啼いている。

実相寺監督の訃報にさいして。(web-tonbori堂)
「実相寺昭雄監督の訃報」(samuraiの気になる映画)
シルバー仮面(☆m7☆MarkのBlog)
異彩の監督・実相寺昭雄氏逝く・・・ガマクジラがお見送り・・・。(ひいろお倶楽部@)
by acoyo | 2006-12-02 16:26 | Trackback(2) | Comments(8)
Tracked from とある店員のぼやき at 2006-12-03 10:20
タイトル : 進化と共に失っていくモノ…
毎度お馴染みaco様のこの文章を読んで、常々感じていたことがありましたので久しぶりにTB。 ガキの時に実相寺に出会えた幸福 これは何事においても言えることだと思うんだけれど、進化すると共に失っていくものってのは必ずあって、実はその失ったモノにこそ、その物事の本質が含まれていたりするということを感じてきた。 今朝、どこかのお米のTVCMでこんな事を言っていた 「お金を払ったのだから、いただきますという必要はないのではないか …中略… いただきますの本当の意味を見つめ直そう」 お金さえ払...... more
Tracked from web-tonbori堂.. at 2006-12-03 22:20
タイトル : 実相寺監督の訃報にさいして。
Excite エキサイト : 社会ニュース|実相寺昭雄氏が死去 「ウルトラマン」を演出 [ 11月30日 12時07分 ]共同通信 嘘だと思った。 けどどうやら事実のようだ。 実相寺スタイルというのを意識したのはウルトラセブンの頃からだったろうか。 ただ実相寺さんの監督したのは『狙われた街』をはじめ僅かに49話中4話に留まり その上1話はある事情で欠番扱いとなっている。 詳しく知りたい方はウルトラセブン、永久欠番でぐぐられるがよろしかろう。 でもそれだけの話数でもガキの...... more
Commented by Mark@m7 at 2006-12-02 19:20 x
TBありがとうございます。本当はあんなエントリー以上にショックでしたが、詳しい人に譲りました。拾って頂いてありがとうございます。
Commented by samurai-kyousuke at 2006-12-02 20:12
実相寺チルドレンって実は沢山いるんだなぁ〜という事を氏の訃報で再認識いたしました。
実相寺作品は画面に「終」の文字が出た後、奇妙な余韻が残るんですよね。
Commented by jaguarmen_99 at 2006-12-02 21:40
横レス御免
> 終」の文字が出た後、奇妙な余韻が残る
ああ〜!言い得て妙なり!!!!(;Д; )
Commented by gun_gun_G at 2006-12-02 21:58
トラックバックありがとうございました。
子供は結構、実相寺監督独特の人間臭さというか
この記事にあるシュールさというか、それを受け止められる
真っ白なキャンバスなんだろうなあ。
きっと監督は色々なものをそのキャンバスに描き続けて
逝っちゃったんfだろうなあ・・・改めて合掌。
Commented by tonbori-dr at 2006-12-03 22:18
拙エントリの一文を引いてもらって恐縮です。
ジャミラのエピソードってのはウルトラセブンのメトロンがひっかかって後年実相寺さんが撮ったと言う事でそこから遡ってコレもやってたのか!という驚きがありました。
あたらめて合掌。
Commented by umaco at 2006-12-05 17:52
マンやセブン、新マンの中で見ていて刺激が強すぎたのか 妙にドキドキしちゃった記憶のあるエピソードに 実相寺さんの物が多く含まれていると知ったのは数年前のことです
それまで誰が作ったとかにあまり興味を感じなかったのですが そのころから意識し始めました
昭和の巨星たちがどんどん消えていくのが悲しいです
Commented by acoyo at 2006-12-06 20:49
★Mark@m7さん
だろうなと思いました。さらりと書いておられましたが、何せ取り上げてるのが「シルバー仮面」だし(爆)。

★samuraiさん
わりとみんな真剣にショック受けてるのが印象的でしたね。ガキの刷り込みってのはでかいもんだと思います。んで、

★じゃがさん
それ、私が言うつもりだったのに、だったのにぃい、ずるい!

★gun_gun_Gさん
ガキってのは、大人が思う以上に受け入れ幅広いんですよ、ただし、「ちゃんとできてるもん」なら、ですけど。
実相寺さんは、ある意味では「不遇」だったとも思えるんですが、同時に、「決して忘れられない」という点ではこれ以上ないほどに幸福な作家だよなあとも思います。
Commented by acoyo at 2006-12-06 20:52
★tonboriさん
ニュースに呆然としつつ、何て書こうと考えて、tonboriさんとこ行って、ああ、これだと。この一言が無ければ、タイトルも浮かばなかったです、こちらこそお礼を言わねば(藁)。

★umacoさん
実相寺の場合、そういう記憶の数珠つながりで「ああ!」という瞬間が、誰しもあるんですよね。
その、ずっと後まで忘れさせない力ってのがすごいなあと思います。