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オアシスはいつもどっかもどかしい、だから切ない、だから「やめられん」


オアシスはいつもどっかもどかしい、だから切ない、だから「やめられん」_b0016567_2222176.jpgOASIS/STOP THE CLOKS(sonyのofficial site 全曲視聴や動画付き、ただし音が出るので注意)

 UKロック界の「兄弟船」、OASIS。♪波の谷間に命の花が 二つ並んで咲いている 兄弟船は親父の形見 型は古いが時化には強いのベスト盤。シングルベストにはなってない。
 MTVのインタビューでギャラガー兄曰く「ベストヒットにはしたくなかった」 ……とは、みんな言う。誰が「ベストヒットにして、労せず印税稼ぎたかった」とあからさまに言うか。
 STAND BY MEが無いぞの声も大きいが、皆様後納得のベスト盤なぞ無いもので、結局、自分で編集するのが一番早い。私としても「何でWHATEVERが入ってないんだ?!」と思いつつも、やはり買っちったぜい。

 おかげで、久しぶりにまともに聴き返したのだが、そいで思った。

 オアシスってカバー不能だな。

 ……ツヅク(無論、今日もきっちり長い)



 オアシスは、言うまでもなく、お育ちと学業成績のおよろしくないご兄弟のバンドだ。
 だもんで、二枚目のとき、《ニューズウィーク》に「確かに楽曲は凄い。10年に一度の才能だ。でも、この歌詞はなんなんだ、文法めちゃくちゃだし、何が言いたいのかわかんねえよ。これって英語か?」と書かれてた。
 まあ、実際、私も何度か訳したことがあるのだが、確かに教科書英語しか知らぬ身には結構、難物。「どういうつもりの言い回しだ?」「んで、この節はどこにかかるんだ?」が多々あったし、何よりかにより、言葉面だけ読んで訳すと「全然、様にならない」(爆)。

 どっかで俺様節と書かれてたが、なるほど、頭の悪い子が言いたいことを前後の脈絡も無く支離滅裂に怒鳴ってる風でもある。スリーブの歌詞睨んでる限りでは、おい、とか言いたくなる。
「だから、彼らはストレートなんだよ!」と仰る向きもおいでだろう。でもさあ、身も蓋もなくストレートってのは、実は言語表現としちゃ最高級レベルなんだよ。(日本でホントにそれが達成できたのはヒロトとマーシーだけだ。まがい物は腐るほどあるけど)
 でも、生憎と、オアシスの歌詞はどう読んでも言語表現レベルが高いとは言えず、といって、歌を聴いて得られるカンドーってのがまた「ストレート」という言葉で解説つくようなもんじゃねえんだわ、どうも。だとしたら、これはどういうことなのか? と考えてしまうじゃないのさ。

 たとえば、かのDON'T LOOK BACK IN ANGER、コンサートでは世界中どこででも涙混じりの大合唱になる一節。(はにかみやさんのシーゴラスでさえ覚束ぬ発音で歌っておった)
And so Sally can wait,   サリーは永遠に立ちすくむ
she knows it's too late  もう手遅れなのを知っているから
as we're walking on by  俺たちが通り過ぎるのを横目で見送り続ける彼女
Her soul slides away,   その痛々しさに心が残ったとしても
but don't look back in anger   それを怒りに転嫁しちゃいけない
I heard you say   そう君は言うけど
 面倒なんで邦盤の訳を使わせていただいたが、完全な意訳、逐語訳。つか、そうして状況から情景から補ってやらんと、何が言いたいのかさえわからんの(爆)。言っとくが詩的省略とか行間読むってレベルじゃねえからね。
 いや、別にそれをあざ笑っておるのではなく、ただ、私が言いたいのは、この言葉面だけ見てると、ノエルがso Sally can waitと歌い上げた時の、あるいは、リアムがNeed a little time to wake up, wake upとたたみかける時の、こちらの身の内に走る電撃、何とも言えないあのエモーショナルな衝撃ってのは、まったく伝わって来ないってことなのさ。脳内nanoで音流して補完しないとね。

 ムロン、中にはましなのもあるし、これは二枚目のハナシで、今じゃ少しはましになってるよ。それに、こりは音楽なんだよ、音楽ってのは言語化不能なもんなんだよと言われたらそりはその通りだ。でもさあ、同じくファン大合唱バンドでも、U2には、字面にしても多少は伝わるモノがあるやんか。(まあ、ボノは元文学青年だし。ジーンズのポケットにいつも「ライ麦」と「蠅の王」突っ込んで入れて、学校さぼってるときも図書館行ってた厨房だったそうだ
 そいで、同じ労働者階級出身、「兄弟船」の叔父貴格、ポール・ウェラーも結構うまいもんな、歌詞。大体、UKロックは、シェイクスピア以来の詩的伝統、言語感覚の鋭さは国家的お家芸ってのがあるから、出自にかかわらず作詞はうまいんだよってのもあるしさあ……とか、つい。

 ……とは言ったものの、毎度お馴染みのアレで何だが、それが悪いとは言うておらんのよ。
 オアシスは歌詞が下手だとも言うておらんの。そういう学が無いもんで、字面だけでも成立する歌詞が書けない、と言うておるだけで。

 たとえばR.E.M.のマイケル・スタイプが長らく歌詞をスリーブに印刷するのを拒んでいたのは、ピーター・バッグ曰くの「マイケルはシャイだから」と(爆)、マイケル自身の「歌詞は耳で聞いて理解するもんだ。字面だけ見てどうこう言われたない」という意志によるものだった、そうだ。
 これは実際、当たり前のことで、歌の歌詞というのは詩じゃない。だから本当は、旋律とリズムから切り離しては評価できない。
 だって、いい歌ってのはまず、その歌われた言葉自体のイントネーションや高低が、旋律とリズムにぴたっとはまってるもんでね。そうなると、メロディとリズムとそれに乗って放たれる言葉の力が足し算ではなくかけ算で増殖する、結果、誰でも口ずさみたくなるわけさ。
 それこそがオアシスが「みんなの歌」である所以、最大の強味だもんな。それが、10年以上前のある日、TVで流れたビデオを見ただけで、私を、次の日の朝、開店を待ちかねてWAVEに駆け込ませた力だもんな。

 つまり、ノエルは(リアムも書いてるが)、このメロディ、このリズムにはこの言葉しかない! という勘を持ち合わせてるわけで、それはものすごいことだ。それがちゃんとできてるミュージシャンなんて、そういない。
 ある意味じゃ歌詞なんて記号でもかまわないんだよ。だって、オアシスってのは、ノエルの音とリアムの(時にノエルの)声だけで、彼らが言いたいことはわかるからさ。

 さらに、オアシスが凄いのは、そこで「言葉以上の意味」が伝えられるってことでね。
 オアシスは所謂詩的タームや気の利いた言い回しなんぞ知ってそうもないし、できない。けど、ロックにおける言葉と音とリズムの関数式には精通している。その上、言葉にできないことまできちんと伝えられる。その点では、天才と言っていい。
 だからこそ、コンサートでファンは一緒に I don't believe that anybody feels the way I do about you nowって歌っちまうのよ。それってまずもって、圧倒的に気持ちがいいからで、そして、そうすることで確実に、「語られた言葉以上の意味」を兄弟船と分かち合えるからだ。

 それがどんなにありふれた常套句でも、ノエルのメロディでリズムで声でDon't Look back in angerと歌われると「彼らだけが伝えられる啓示」に聞こえる。ノエルが書き尽くせなかった部分までもが、ダイレクトに伝わって来る。
 リアムが'Cos my friend said he'd take you home He sits in a corner all aloneと歌う時、その言葉は「だって、連れが言ったんだ、家に連れてってやるって、そいつは角っこに一人っきりで座ってるよな野郎なんだ」という言葉通りの意味だけのものではなくなる。それ以上の何かが、こちらにぐっと入って来る。

 そこで生じる強い感情、魔法を言葉にするならば、私にはやはり、「もどかしさ」となる。
 それは決してオアシスの表現が拙いからもどかしいのではなく、対人コミュニケーションに本質的につきまとうもどかしさってのですよ。
 人と人とのコミュニケーションには、どこまでももどかしさがつきまとう。まして極力誠実に、正面切って伝えようとすると、そのもどかしさはより甚だしいものになる。オアシスがこちらと繋がりたいと思い、こちらはオアシスと繋がりたいと思う。もっと繋がりたい、もっと深く関わり合いたいと激しく思う。そのときの、「さらに」「もっと」という加速する焦燥感、そのもどかしさ。
 そして……切なくなる。
 そんな風に、オアシスの歌は心をつかんでぐいぐい揺すぶってくる。LAYLAみたいな歌聴いてても、ふと胸かきむしられて一緒に声を出したくなるのは、そのせいなんだ。その幾何学級数的に膨らんでく魔法は、他の誰が演っても歌っても、絶対に生まれないものなんだよな。
 だって、どーしてもその魔法にはギャラガー兄とギャラガー弟が要るんだもの。だからこそ、オアシスの歌ってのは極めて優れたものではあるけれど、カバー不能なんだわ。つか、オアシスのカバーなんて、誰がやろうが私は興味ねえよなと。

 このベスト盤が通好みなのか初心者向きなのかは、わかんない。でも、そういう魔法は垂れ零れるほどあるんで、あまり聴いたことない人は、この際聴いてみたってよとは言える。
 無論、WHATEVERは入ってないけどな。そいと、DVD付きの方を買うと、リアムが「うちのにいちゃんはいかに専横か」を延々言ってるのが聞ける。


追記:ベスト盤レビューってのは、そのミュージシャンと自分との総括できて便利だな。この勢いでU2、殿下とベスト盤シリーズに行きたいもんだわ。
by acoyo | 2006-12-06 23:39 | 音楽 | Trackback | Comments(2)
Commented by るき at 2006-12-08 16:06 x
オアシスはLive Foreverで止まったままです...でも12年前、この詩にちょっとだけ勇気をもらいましたよ♪
オアシス兄は最近では朝子供達を起こして食事させ送りだすという良きパパぶりを発揮してるそうですf(^-^;
Commented by acoyo at 2006-12-08 17:40
★るきさん
LIVE FOREVERは来ますからねえ。私も未だに来てますよ、あの歌には。あれがデビューアルバムってのが怖いバンドです。
そうかギャラガー兄は、今ではいいお父さんなのか。どうもなあ(爆)。どうも、オアシスには電車止めたり飛行機から降ろされ続けて欲しいと思われ。