田を植ゑて空も近江の水ぐもり   半径200キロくらいか、多分の散策 琵琶湖「近江八幡~湖北」#1


 タイトルの句は森澄雄。んで、↓のエントリで上げた写真(携帯撮影)は、近江八幡の水郷めぐり。要するに川遊びなんかしちってたんですね、わたくし(わ、すげえ聞こえのいい表現)。
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 それがねえ(藁)、運がいいんだか悪いんだか混む時間の狭間だったか、その舟に乗ったのはわたくしとシーゴラスの二人きりでねえ。
 気のいい船頭のおじちゃんがガイドなんかしてくれるのも、正直、有り難くって迷惑ではあったが、そういうとこは抜群に気を使う夫婦だもんで、精力的に相槌を打ち続けた。まあ、モーターと水音で何言ってるか、ほとんどわかんなかったのはラッキーだった(爆)。
水は黄土色だったが、これについてまず船頭さんがまず何より最初に、ホントは綺麗なんだよ、でも、今、農繁期でしょ、そっちの水が来るんでこうなんだよ、ホントはもっと綺麗なんだよと一生懸命言ってはったんで、なんだか苦笑しちった。いいって、そういうこと気にしないって。だって、つまりそれって生きて動いてる水だってことじゃないのさ。芭蕉が舟で遊んだ時だって、五月雨と謳ってるから、こんな水だったかもしんないじゃん

 そうやってモーター音は聞こえても、水音ははっきり聞こえる。いつも思うんだが、水の音ってのは、驚くくらい人の神経を撫でてくれる。後、聞こえるのは葦の原の中に居る水鳥の鳴き声だけだ。卵を孵す時季なのか、休日で舟が行き交うせいか、姿はあまり見えない。ただ、鳴き声だけが葦の奥から聞こえてきた。

b0016567_19344289.jpg 曇り気味とはいえ結構暑かったのに、水の上の空気はひんやり冷たかった。湿った風で髪はくしゃくしゃになったけど、とても気持ちよかった。
 だから、私は機嫌のいい猫みたいな気分になって、ぼけーっと川や水路や葦を眺めていた。
 葦の向こうには水田が広がる。田植えが済んだ後の水を張った田んぼだ。水には春の曇った空が映る。
 豊葦原の瑞穂の国、という言葉が、すとん、と浮かんだ。
 その、「すとん」加減もまた、とっても心地よかった。

 んで、そんな言葉出しといて何だが(藁)、私淑する故網野善彦先生は、日本史における「民」=農業民ではないこと、要するに、歴史を「田畑耕すおヒャクショー」中心にばっか考えるってどうよと言われたお方である。日本人はコメ作ってたヒトばかりじゃないんだよと。
 だから、漁業民のことも、水上交通というもののこともつまびらかに書いておられる。あの方の学説については賛否両論ありますが、言えるのはともかく刺激的ってこと。
 たとえば、先生は、日本を含む東アジアの地図というのをひっくり返して見てみろ、と仰有っておられた。そうすると、あらステキ、日本というクニが、「海に閉ざされた島国」ではなく、アジアや南太平洋の諸島と「海で繋がった」一大文化圏の中の一地域に思えてくるでしょ。
 まったく違った形で、人やモノの繋がりが見えてくるでしょ。つまり、海もまた広大な大地であり、川もまた道である……ってなことなのね。

 こうして水の上に出ると、それがよくわかる。
 というか、ホント、ここもまた道だってはっきりわかっちゃうのだ、肌身で。
 そして、日本とはこういった「水の道」が隅々まで行き渡ってる国なんだ、と痛切に実感できる。

 何にせよ、川から眺めると、土地の様相は一変する。今まで見えていたものの中から、今まで見えなかったものが見えて来る。
 そして、風景はまるで違ったものになる。それはとてもオモシロイ。

 ……てなコーショーそなこと考えちって、かなり無理してねえかおめえ? という感もあるが、同時に、ここのどっかで舟留めてもらい、ビールなんか飲みながらライ・クーダー聴いてりゃ、それこそ鳥肌もん Chicken Skin Musicだよとも延々思ってたわ。畜生、缶なりとも買ってくりゃよかったよ、でも、ここで飲むのにエビスは重いな、やっぱキリンよね……。
 とかなんとか、私は日向の猫状態で物思いにふけり、船頭のおいちゃんはいなたくガイドを続け、それに「水の側にさえ居ればカンファタブル」なシーゴラス*1は一々振り向いて相槌を打ち続け、そして、舟は思うよりずっと早く水を切って進んでいった。

 やっぱ、ここはライ・クーダーだわ。彼のあの、撓う音からは土埃の匂いがして、その中ではいつも神様と悪魔があっけらかんと隠れんぼしてる、そういう音がはまるぞ。そう思いつつ、わたくしはOne day married, next day free,Broken hearts for you and me……なんて口ずさんでおったです。

 ただ、この水郷巡り、時間とルートという点では、すこし物足りない。さらにお金を積むor気のあった同行者を集めて@を低くする、で貸し切りにしてじっくり回れたら、もっとすげえよかったのになと思う。金持ちになったら考えよう。

 そうそう、飛び込み宿泊は失敗し、気息奄々数百キロを走って帰宅いたしました、夜中に。
 何、GWのせいではなく、無計画なわしらが悪いのだが、それは次回に。

*1彼の両親は瀬戸内の同じ小島出身で、海の民純血種の血筋である(恐らく先祖はアルバイトで水軍とか海賊とかしてたに違いない。フルタイムでやってた可能性もある)。んで、そっちの系統は全然DNAにない私とは、時に、生活感覚という点で劇的な違いがあったりする。それで喧嘩になったりもするが、なんかオモロイ。

「海と列島の中世」(網野善彦/講談社学芸文庫)
「街道をゆく〈24〉近江・奈良散歩」(司馬遼太郎/朝日文庫)
PRADISE AND LUNCH(Ry Cooder)
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by acoyo | 2007-05-09 17:24 | 半径○キロの散策 | Trackback | Comments(14)
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Commented by isao at 2007-05-09 19:02 x
acoyoさん、こんにちは。
ライ・クーダー、いいですね~。久々に聴いてみたくなりました。
そういえば、昔々カミサンと尼崎までライ・クーダーとデヴィッド・リンドレー
のデュオのコンサート聴きに行ったなぁ。
今度、ボクもカミサンと一緒に水郷めぐり行ってみようかな...
Commented by acoyo at 2007-05-09 19:06
★isaoさん
おひさですぅ! あ、そのコンサート、私も行ったのと同じ時のかなあ。リンドレーと一緒のは確か厚生年金で観たような。ソックスがずーっとずりっぱなしで、やたら引き上げていたのが印象的(爆)。
水郷めぐりはisaoさん好みだと思います。是非、どうぞ。
Commented by robano-ana at 2007-05-09 20:24
おぅ、風流ですね。
京都散策編からのレポートは、野蛮な蝦夷地からは異国を見ているような気分になります。
実際、こちらから内地へ行くと、空気感からして違うので北海道って異国なんだと感じます。
瓦屋根に土壁の日本家屋なんて、見たことない(笑)
夜中の長距離ドライブ、お疲れ様でした。事故には、くれぐれもお気をつけ下さいね。
Commented by tonbori-dr at 2007-05-09 21:54
近江八幡の水郷かあ!これはまたよきところへ行きなさった(^^)
>海もまた広大な大地であり、川もまた道である……ってなことなのね。
浪速の街も八百八橋は言うに及ばず今の大阪市がまだ入江だった頃もそういう水郷を中心とした水路交通が大和まで伸びていたという説もありますし、そういう事に身をおける場所としても良いですねえ。
Commented by nonkey37 at 2007-05-10 08:46 x
下の写真を拝見して「琵琶湖かな?」と思っていたのですが、やはりそうでしたか~(何となく嬉しい・笑)
琵琶湖には2度ほど家族で出かけました。そのうち、一度は奥琵琶湖で泳いだりして。あっちには湖水浴場がいくつかあるんですよね。
その話を滋賀県出身の知人に話したら
「えっ 琵琶湖って泳げるんですか!?」とビックリされました・・・
でも近江水郷巡りは私も知らなかったです。関西圏にお出かけテリトリーがあっても意外に灯台下暗しなんですよね。
Commented by umaco at 2007-05-10 10:46
雰囲気のある写真ですねぇ 色が無いことで水面が映えています
琵琶湖は湖西が近江舞子 湖東は近江富士(野洲あたり)より以南しか行ったことがなくて 安土や彦根それに小谷はいずれ行かねばと思っております
しかし舟遊びもあまり暑い時期じゃなく 今頃が一番いいかもしれませんね  照り返しって結構鬱陶しいですから
Commented by jaguarmen_99 at 2007-05-10 14:46
トンデモではない刺激的な学説っていうのはどこか納得してしまうところが有って、そういうのを読んでいるとこんな人が議論を前に進めるんだろうなぁ、と感心してしまいます。
Commented by samurai-kyousuke at 2007-05-11 18:26
2枚とも風情のある良い写真ですね。川遊びとは羨ましい限りです。
こちらは遅々として進まぬ引越しの後始末にうんざりしつつも、開き直り、クラプトンのアルバム「chronicles」なんぞを聴いてコーヒーを飲んでおります。
Commented by y_natsume1 at 2007-05-12 17:40
網野先生の学説、写真、ライ・クーダー、瀬戸内の小島の注、全てが一体となって響いてくるような、ステキな文章ですね。 参りました。
Commented by manyana at 2007-05-14 18:01
>川から眺めると、土地の様相は一変する。今まで見えていたものの中から、今まで見えなかったものが見えて来る。

なんとなぁ〜くだけど、分かる気がしますコレ。
具体的に「何」が「どう」とも言い難い&私の場合は晴海埠頭ら辺の水上バス程度なんですけどね(^^;)
新しいお散歩コース開拓を考える時、真っ先に川沿い(暗渠も多いけど)を探してしまうのも、こーゆー理由かもしれないなぁ〜と思ってみたりしました。

ほで、ライ・クーダー『神様と悪魔があっけらかんと隠れんぼ』って、まさにそんなカンジかも!です。
今日は↑を意識しつつ、聴いてみよう(最近、聴いてなかったし)。
Commented by wake1 at 2007-05-14 19:22
網野氏の本は自分もいくつか読んだことがあって、
「日本社会の歴史 上・中・下(岩波新書)」とかが
彼のいろんな分野にわたる知見をまとめた本として
手頃だった。電車の中でも読みやすかった。
農業従事者を「百姓」という言葉は、あまりよくないという
考えを打ち出した人でもあった・・・んですよね。
僕も旅に出たいなぁ。
Commented by acoyo at 2007-06-10 02:05
激亀レスです……って何度謝ってるんだか(涙)

★robano-anaさん
蝦夷地! なんて浪漫を誘う名前!
つか、ごたごた山脈だの川だのが入ってせせこまく隔たれてる本州ってのは、50キロ離れたら空気もビミョーに違い、100キロ離れたら光景一変ってのが結構あるんですよ。東日本まで行けばそこそこ異国感(爆)。

★tonboriさん
水郷はむしろ、雪降ってからがなんぼってとこもあるかもしれません。湖北はもう、きっとそうだろうなあと思いました。そんで、そうなんですよ、水の都だったりしますしね、大阪は。一度、遊覧船乗りたいんですよね。近いだけに後回しになっちゃって。

★nonkeyさん
実は私が初めて顔つけて泳いだのが琵琶湖だったりします。子供の頃、毎年、比良の方に行ってましたから。その点でも懐かしかったけど、あんなに寂れてるとは思いませんでした。とかいいつつ、水郷は私も、最近知ったんですよ。湖北の小さな町だと、町全体に疏水が流れてるって場所があって、仕事上がったら、今度こそ泊まりがけで行きたいなあと。
Commented by acoyo at 2007-06-10 02:06
★umacoさん
えへへ、これ、実は相当にフィルター処理かけてます。ホントはセピア逃げでなく、もちっとコントラスト強い、ざらざら感さらに強めた「モノクロ」ってのに仕上げたかったんですが、そうすると、やっぱ、ご指摘の水面がうまくでないんですね。元の写真で計算して撮ってないから(爆)。
安土あたりは春なら桜のうちがやっぱベストじゃないですかね。それこそモノクロで狙うとumacoさんなら凄くステキなのが撮れると思う。後は冬で雪ですよ。といって、湖北の冬はスキーバスで混むんだろうなあ……。

★じゃがさん
トンデモと刺激的の差ってのはとても大事なとこなんですよね。そいで、網野先生はよくも悪くも「流行り」なんですが、あの方を「反主流」ということでバカにしたり無視したりするんじゃなく、真っ向から議論ふっかけてく学者さんも居て、そういう方も負けずに刺激的でオモシロイですよ。今谷明さんなんか、とってもスキですね。

★samuraiさん
川遊びというほど風流でもなくて(汗)。
引っ越しは片付きましたか? うちはその予定も無いのに、それなみに部屋がごった返しています。早いとこ、床が見たい(爆)。
Commented by acoyo at 2007-06-10 02:08
★natsumeさん
いつも過分のお褒めにあずかり、キョウシュクでございます(汗)。実んとこはnatsumeさんみたく、すらっとまとめたいんですが、毎度脱線するのが私の性のようです。

★まにゃーなさん
そう何がどうとも言いにくいですけどね。ただ、都市景観を川から見るって点で、やっぱ東京は魅力的ですね。晴海とか、私もあの辺は大好きなんです。月島住みたいなあとか思ってるんですが、流行遅れのミーハー?(爆)
ライさんはなんかこの時期、晩春というか、春でもなく夏でもなくって感じの時によく聴きます。一度ちゃんと書いてみたいんですが、ホント、書きにくいんだ、あの人は!

★wake1さん
wakeさんは、ホント、今、旅に出るにはいい時期じゃないかな? いろいろ書いた後だから、ゆかりのとことか行くと、いきなり見え方が一変するかもよ。
網野先生は、あの読みやすさは確かに最大の強みですね。といって、気安いこと書いてるわけでもないんで、学者さんで文章読ませる力があるってのはすげえなと。とはいいつつ。じゃがさんとこで書いた今谷さんなんかと読み比べるとオモシロイですよ.