そして、今朝も雪が降っていた。 さよなら、市川さん。

市川崑監督が死去

そして巨匠も逝った。(web tonbori堂)
木枯らし吹く日に、市川監督逝く。(映画の心理プロファイル)

 今晩はポリスのレビューを書くつもりだったし、金沢の写真も仕込みもしたかったし、そいと、tonboriさんがせんに書いてらしたロイ・シャイダーのことも書きたかった(kiyotayokiさんも書いてらしたです)。
 でも、さっき、このニュースを聞いて、全部吹っ飛んじった。

 今は何か、まとまったものを書く気力はなくて、そりゃあ覚悟はしていたけれど、覚悟はとーっくにしてたけどね……。

 ただ、私にとって、横溝シリーズの市川崑と呼ばれるのはちょっと忸怩たるものがある。つか、すこぉし、居心地が悪い(藁)。
 ムロン、あれが悪い作品というわけではない(2.14追記:そんで、あのシリーズが嫌いだって意味では決してナイ)。商業的な成功は、クリエイターにとって大切な勲章だものね。
 けれど、なるほど市川は巨匠でありつつプログラム・ピクチャーもこなせるという、本来は当然、今となってはとても稀有な存在であったわけだけれど、横溝作品では、彼の作家性が、スキルとセンスに偏って発揮されていたと思う。前述した通り、プログラム・ピクチャーも結構撮ってる人なのだが、職人として仕事をこなしつつもちゃんとトータルで作家性を立たせているものも多いからだ。

 というわけで、私にとってはやはり、「雪之丞変化」の市川崑であり、「炎上」の市川崑であり、「股旅」の市川崑であり、「東京オリンピック」の市川崑であり、何よりかにより、「木枯し紋次郎」の市川崑(総監修で一部監督)で、「細雪」の市川崑だった。

 市川崑は、日本独特の陰影の美を余すところ無く表現しつつ、その手法は常に斬新でむしろコスモポリタンだった。紋次郎で壮絶にリアルな殺陣を作り上げながら、それをうっとりするほど美しく撮った。悲劇の中に喜劇を、喜劇の中に悲劇を見る、言葉通りの意味でのヒューマン・コメディ、「人間が生きているという喜劇」を撮った。つまり、最高にクラシックで最高にモダンな、エッジがたっていてめちゃくちゃクールで洒脱な監督だった。そして、あらゆることを、物語や人間を、台詞で解説するんじゃなくまず映像で、「画」で語ってみせた。
 画づらが綺麗なだけの監督なぞいくらでもいるが、「画」で満腹にさせる監督なぞそういない。私にとって市川崑とは、そういう監督の一人だった。

 私は、このイカシたじいちゃんと、じいちゃんが作る映画を(出来不出来はあっても)アイしてた。御大黒澤、前に書いた黒木と並んで、洋画一辺倒だった小娘に邦画の凄さを教えてくれた人、リバイバルの邦画を観るため、あちこち足を運ぶようにさせてくれた監督だった。
 だから、今も、仕事をやっててどうにも辛い時など、私はよく「細雪」のDVDを引っ張り出す。そして、淀川長治先生をして「完璧」と言わしめた映画を堪能して至福の時を過ごした後、おもむろにパソコンに向かい直す。そして、巨匠の万分の一でもがんがって仕事しようとか思う。

 ニュースでこの訃報を聞いた時、私はふと、13日未明なら雪が降っていたなと思った。少なくともうちの近所では降っていた。何にせよ、私は、彼がこの世を去るときに雪が降っていたならいいな、雪が降っていてほしいな、と思った。
 御室の桜はまだ咲かず、金閣寺も燃やせないのなら(爆)、彼を送るには、やはり、雪です。

 そいで、私は窓の外を眺める。外は暗くて何も見えない。雪もやんじゃった。
 でも、多分、今の私は、「細雪」のエンディングで、降りしきる雪を見つめていた石坂浩二のような表情をしてるんだと思う。「あれが嫁にゆくんや」と呟いた、あの顔をしていると思う。

 それでも、いっか。
 これでやっと、市川さん、奥さんに会えるんだ。


●wikipedia 市川崑



すいません。↓のエントリのレスは明日つけさせていただきます。ごめんなさい。

 
 
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by acoyo | 2008-02-14 00:00 | 映画・ドラマ | Trackback(1) | Comments(11)
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Tracked from ひいろお倶楽部@ at 2008-02-14 12:38
タイトル : 日本映画界の巨匠・市川崑氏逝く・もう1人の巨匠の夢を叶えた話
こんにちは、Gです。 先日のロイ・シャイダーの訃報にも驚きましたが 昨日のボイラーデスパーの記事アップ後にこの巨匠の訃報を知りました。 昨夜は事情があって友人方のブログにはコメントできなかったのですが、 まず日本映画界が誇る巨匠の訃報を書かせて頂きます。 映画監督で文化功労者の市川崑氏が13日、肺炎のため亡くなられました。享年92歳。 んー・・・映画を観てる方なら必ずは鑑賞されてると思う市川作品。 Gとて「犬神家の一族」や「木枯らし紋次郎」、「古都」、「細雪」、「ビル...... more
Commented by せんだって日記 at 2008-02-14 02:37 x
僕にとっては犬神で八つ墓の市川崑でした。
優れた映画監督はすべからくわがままで、わがままを許すのが才能です。
才能というのは勘の良さで、探偵劇をカットバックで見せる発明、その時の一枚画の美しさは、どうしようもないほどに官能でした。

覚悟はしてたけど、寂しいですね。
Commented by JULIKA at 2008-02-14 09:31 x
私は『東京オリンピック』でしたねえ。まだジャリでしたから、理解したとは言えませんが、「ニンゲンの動いているところってこんなに美しいんだ〜」と思った記憶があります。
煙草をおやめになるのが遅すぎました。合掌。

ひさびさのacoさまらしい書き込みに感動しております。
ところで全然話題はかわりますが、ニュルンベルク動物園のフロッケちゃんの画像見ました?
Commented by s/yumic. at 2008-02-14 10:07 x
「木枯し紋次郎」 幼い頃、でも、再放送だったかなぁ、画面を見て、そのショットに感動してたのが、まざまざと蘇ってます。
「まるで、映画みたいだ」そう思ったっけ。
ご冥福をお祈りします。
Commented by KAZZ at 2008-02-14 12:38 x
私にとっての市川昆は「股旅」でした。
当時、人気の萩原健一をこ汚い田舎の任侠被れと云う役に配し、早口で口上をまくし立てる演出は小気味良かったですね。
「木枯らし紋次郎」のでの映像とはまた違った、喜劇的なしかし突き放した演出に驚いたものです。
しかも大監督なのに、ATGの低予算映画だもんね。
奥様、和田夏十の横で煙草燻らしながらニヤニヤしてるんだろうな~。
Commented by gun_gun_G at 2008-02-14 12:51
市川監督の訃報を知ったのは昨日の記事アップ後でしたが
事情があって昨夜中のレスができませんでした・・・。
色んな映画やTVを観させてもらいましたが
父は市川ファンで「ビルマの竪琴」はいきなり観に行くぞ!と言って
映画館まで一緒に行った記憶があります。
このトラバネタは温存してたネタなのですが弔いになってしまうとは・・・
合掌。
Commented by acoyo at 2008-02-14 14:43
★せんだって日記さん
>その時の一枚画の美しさは、どうしようもないほどに官能でした。
そうだわ、エロティックとポップという市川キーワードを忘れていた(藁)。
>わがままを許すのが才能
その通りです。んで、その溢れる才能ゆえわがままが許される市川だって、ちゃあんとプログラム・ピクチャーをクライアントの要求基準満たして撮ってたわけで、いたずらな芸術家気取りには爪の垢、それも足の爪の垢でも煎じて飲ませたい。

★JULIKAさん
「東京オリンピック」は名画座の市川崑週間で見まして、噂聞いてた私でさえ最初度肝を抜かれましたが、ともかく、「美しく力強い」映画だったと思います。何より、昭和30年代の空気がひしひしと伝わって来て、ドキュメント作家としても食えたな、このシトと思います。
ニュルンベルグのクマ公はもちろん観てますよ~。CSのニュース局でベルリンの子ともども続報を出し続けてくれてるもんで、体よじってもだえながら観ております。シロクマの人工飼育は今なお暗中模索で、ピースにしても適応障害を起こしたりと成功したとは決して言えない状況だけに、あの子は無事に育ってくれますようにと祈っております。
Commented by acoyo at 2008-02-14 14:45
★ゆみたん
あ、ゆみたん、不義理しててごめんね。
そうだねえ、紋次郎は私も、子供心にすごい画面だなと思い、市川崑という名前を最初に覚えたのがあれだった気がします。たぶん、マミーが教えたんだろう。


★KAZZさん
あ、エロスとポップに続き、ドライでハードボイルドというキーワードも忘れていた(爆)。
「股旅」はやはり名画座で観ました。10代でしたので痺れましたね。前に書いた黒木の「竜馬暗殺」をその前に観ていて、タッチは全然違いますが、同じ匂いを感じました。どちらも秀逸な青春映画だったからだと思います。

★gun_gun_Gさん
TBありがとうございます。コメントはそちらで。
うちは映画観るのは母の方でして、彼女は小津なんか好きみたいです。んで、今は候考賢と宮崎と山田洋次「の時代劇」に凝ってます。
Commented by kiyotayoki at 2008-02-14 20:32
記事内リンク恐縮です。
「これでやっと、市川さん、奥さんに会えるんだ」
というacoyoさんのラストメッセージに、ジ~ンときてしまったkiyotaでした^^;。
Commented by tonbori-dr at 2008-02-14 20:55
そうだった!『木枯し紋次郎』あのオープニングのなんと素晴らしきことか。
ビデオにとって擦り切れるまで観たものでした。
こういう人を『マエストロ』っていうんだよって若い人には知って欲しいですね。
Commented by wake1 at 2008-02-15 00:45
本日、ママンが「細雪」をなくなった姉と見に行った・・・と
懐かしそうに話してくれました。
あとは、小津さんと市川さんの美点比べになった。
ヲカマとしては、小川真由美の怪演技を引き出した監督
というところが評価すべきなんでしょうが、やはり
僕にとっては「細雪」の監督だったなぁ。
Commented by acoyo at 2008-02-17 01:57 x
★kiyotayokiさん
お褒めいただけてウレシイです。あれはあそこまで書いて、上げようかというときに、ふと思って書き足しました。つか、そうとでも思わないとやっぱ寂しすぎるもんで、こっちが。

★tonboriさん
そうだったのだよ、紋次郎の市川さんなんすよ。そうですねえ、あのオープニングですね。カットバックいれさせたら天下一品。エヴァに関してはそれについても影響を受けてると思います。

★wake1さん
うちのマミーは前述の通り、小津派なんだよね~。
でも、「細雪」派が居てウレシイ。んで、オテムバさんなら「雪乃丞~」なんかお好きじゃないですか?